何者

1/2
8人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ

何者

「あ、紹介するね。こちらは上佐野天馬(かみさのてんま)くん。中途で入ったから挨拶に。あれ?もしかして知り合いだった?」 南出が芦花(ろか)と上佐野を見比べた 芦花はかぶりを振った しかし、上佐野の方は目を大きく見開いたまま、芦花から目を離さない 「お前、その格好‥」 上佐野は何か言いかけたが、玉谷と南出の目を気にしてか、 「人違いでした。すみません」 と目を反らした (‥気になる‥!) もしかしたら上佐野は、女性のときの芦花を知っているのかもしれない そんな考えが頭をよぎり、芦花は南出たちが帰ったあと、早速上佐野宛てに社内メールを送った ※※※ 昼休みに、待ち合わせに指定したビル1階のカフェの窓際の席に座っていると、芝生広場を突っ切って走ってくる上佐野の姿が見えた 走る度にセットしてあった髪が無造作に乱れて、社会人とは思えないほど若く見えた (ああいう感じの汗が似合う男の子が好きだったなあ…) 芦花は高校時代を思い出した すごく好きだった男子がいたが、今と同じように自信がなくて、ずっと胸に秘めていた あんなに好きだったのに、いまは顔も名前も思い出せなかったが、目が合っただけで一喜一憂して妄想して、でも向こうは目が合ったとすら思っていなくて‥ そんなことを繰り返して大人になったから、今も芦花は自分に自信が持てないままだった 店に着いた上佐野は、何も買わずに真っ直ぐに芦花のところにやってきた そして、開口一番、 「聞きたいことって何?こっちが聞きたいんだけど」 いきなりの剣幕に、芦花の体からサーッと血の気が引いた 「その格好、一体何があったんだよ!」 他の客や店員たちが一斉に上佐野を見た 「お、落ち着いて。わた…俺もそれを聞きたくて…」 芦花があたふたと上佐野をなだめていると、 「何騒いでんだよ」 今しがた店に入ってきた男性が、上佐野の肩を掴んだ
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!