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何者
「あ、紹介するね。こちらは上佐野天馬くん。中途で入ったから挨拶に。あれ?もしかして知り合いだった?」
南出が芦花と上佐野を見比べた
芦花はかぶりを振った
しかし、上佐野の方は目を大きく見開いたまま、芦花から目を離さない
「お前、その格好‥」
上佐野は何か言いかけたが、玉谷と南出の目を気にしてか、
「人違いでした。すみません」
と目を反らした
(‥気になる‥!)
もしかしたら上佐野は、女性のときの芦花を知っているのかもしれない
そんな考えが頭をよぎり、芦花は南出たちが帰ったあと、早速上佐野宛てに社内メールを送った
※※※
昼休みに、待ち合わせに指定したビル1階のカフェの窓際の席に座っていると、芝生広場を突っ切って走ってくる上佐野の姿が見えた
走る度にセットしてあった髪が無造作に乱れて、社会人とは思えないほど若く見えた
(ああいう感じの汗が似合う男の子が好きだったなあ…)
芦花は高校時代を思い出した
すごく好きだった男子がいたが、今と同じように自信がなくて、ずっと胸に秘めていた
あんなに好きだったのに、いまは顔も名前も思い出せなかったが、目が合っただけで一喜一憂して妄想して、でも向こうは目が合ったとすら思っていなくて‥
そんなことを繰り返して大人になったから、今も芦花は自分に自信が持てないままだった
店に着いた上佐野は、何も買わずに真っ直ぐに芦花のところにやってきた
そして、開口一番、
「聞きたいことって何?こっちが聞きたいんだけど」
いきなりの剣幕に、芦花の体からサーッと血の気が引いた
「その格好、一体何があったんだよ!」
他の客や店員たちが一斉に上佐野を見た
「お、落ち着いて。わた…俺もそれを聞きたくて…」
芦花があたふたと上佐野をなだめていると、
「何騒いでんだよ」
今しがた店に入ってきた男性が、上佐野の肩を掴んだ
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