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芦花と上佐野の間に割って入ったのは篠崎だった
「公共の場で悪目立ちすんな!」
コーカソイド系とのハーフで、端正な顔立ちの割に口が悪い篠崎のギャップを目の当たりにして、芦花はこんな状況にも関わらずときめいた
上佐野は、周りからの視線に気づくと、気まずそうに篠崎の手を振りほどき、足早に店を出て行ってしまった
「…ありがとうございました」
芦花が長身の篠崎を見上げてお礼を言うと、
「お前はトラブルホイホイだな」
篠崎がポンポンと芦花の頭を叩いた
その時、
「篠崎くーん。何食べる?」
レジの前に立つ女性たちが篠崎を呼んだ
「あ…お邪魔してしまってすみません」
どうせ恥ずかしくて店内では食べられない
芦花がサンドイッチとコーヒーを持って立ち上がると、篠崎が芦花の腕を掴んで引っ張りあげた
「悪い。俺、今日はこいつと食べるわ」
驚いたのは、女性たちより芦花の方だった
※※※
芦花と篠崎は、芝生広場にある噴水の縁に並んで座った
暖かければ、芝生の上でランチを楽しむ人々もいるのだが、冬場は足を止める者もいない
篠崎の肩が、芦花の肩と触れ合う距離にあり、意識せずとも気になってしまう
隣を盗み見ると、篠崎の金色のまつ毛が風にそよいでいた
女性の時の芦花だったら、篠崎とサシでランチなんてできなかっただろう
それ以前に、存在すら知られていなかったはずだ
「で、あいつは何者?」
篠崎が、ホットドッグにかぶりつきながら聞いた
芦花はサンドウィッチを持つ手に視線を落とし、上佐野が自分を知ってるらしいこと、だが自分は覚えていないことを話した
「お前があいつのこと知らないんだったら話す必要なくね?」
篠崎が至極もっともなことを言った
芦花だって、性別のことがなければ、上佐野と話そうなんて思わない
芦花がモゴモゴしていると、篠崎は長いため息をついて
「忘れるくらいなら大した知り合いじゃないんだろ。ったく心配かけさせんなよな」
篠崎はそう言うと、篠崎の頭をポンポンと叩いた
(‥んん?)
この態度には既視感がある
ただし、三次元ではなく、どこかで‥
3秒後、芦花は唐突に結論に思い至った
(これが…デレ…!!!)
二次元でよく見るやつだ
まさか自分が目の当たりにしようとは
芦花は鼻血が出そうになった
待て待て待て
芦花は頭の中でその考えを打ち消した
そもそも最初から違和感があったではないか
男の芦花に対する他の人たちの接し方は、女だった頃には考えられないものだ
男の芦花はなぜか認知されていて、それどころか少し人気者で、こうしてイケメンが女性との約束を蹴ってまでランチをしてくれる
男になった瞬間に、皆の記憶がすり変わったとしか思えない
SFでよく見る設定だ
現実世界では起こり得ないことだから、にわかには信じられないが、イケメンと付き合えるなら、SFだろうが、男だろうがどうでもいいと思った
今日の朝までの、退屈でさみしい生活に戻るくらいなら
芦花は篠崎に向かって照れ笑いをした
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