賄いの味

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「え?初詣一人でしちゃったの?」 芦花が先に参拝を済ませてしまったことに天馬は口を尖らせた 芦花は鳥居の脇で、天馬が参拝を終えるのを待った 「あーさみぃ。カレー南蛮の効果切れた」 天馬が手をこすりあわせながら戻ってきた 「本当だな」 芦花の返事を聞いた天馬が「芦花?」と言って顔を覗き込んだ 「(ちけ)え」 「や、お前、声変じゃね?」 次の瞬間、天馬の顔色がサッと変わった そして、芦花を神社のトイレに引っ張っていった 「何だよ!」 「鏡で顔見てみろ!」 天馬に言われて鏡を見ると、そこには見たことがない女の子の顔が映っていた 「これ、誰だ?」 「お前だよ!何だこれ…訳わかんねえ…」 天馬が頭を抱えた 芦花はペタペタと自分の顔を触った すると、鏡の中の女の子も同じ動きをした 胸に違和感を感じたので触ってみると、そこには小さいながらも膨らみがあった 「うわっ!」 芦花は慌ててダウンコートの裾で手を拭った 混乱したままトイレから出ると、同じクラスの男子数人が騒いでいるところに出くわした 彼らは天馬と芦花が一緒にいるのを見ると、「お前ら付き合ってんの?!」と囃し立てた 彼らだって、芦花と天馬の仲がいいことは知っている 二人で初詣に来ていたからといって、普通は【付き合う】などという発想にはならない それは彼らも芦花を女子と思っているということを、間接的に物語っていた その時、誰かが「よくあんなブスと付き合えるよな」と笑いながら言う声が聞こえた ※※※ 「それで天馬が殴りかかって、親や先生が呼ばれたんだった」 芦花の思い出話を、天馬は黙って聞いていた
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