心からのお願いです。大事な事は早く言ってください

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心からのお願いです。大事な事は早く言ってください

 何度も立ち上がる俺を見て、毒気を抜かれたのかエドワードは可笑しそうにククッと笑う。細めた目には嬉しそうな輝きが見え隠れしていた。 「では、11回目の勝負をしますか」  その言葉と同時に、一瞬で戦闘態勢に入るエドワードは鋭い視線で俺を刺す。その目だけで俺はゾクリと体が震える。圧倒的強者に対しての恐怖が心を支配し、怯んでしまう。  エドワードは凄い。  生半可な気持ちだったら、視線だけで勝敗がついてしまうほどに。 「兄さん」  俺達が睨み合っていると、第三者の声が聞こえ、ピンと張っていた緊張の糸が切れた。  俺とエドワードは同時に声がした方に顔をむけると、分厚い量の書類を片手に、王宮魔道士長ザラが長い銀髪をなびかせながら、スタスタと俺達の方へ歩いてきた。 「おう、ザラ」  エドワードは懐っこく笑うと剣をおろした。俺も剣をおろし、ザラを見る。 「兄さん、騎士団長が探してましたよ」 「おっと、もうそんな時間か」 「まったく……」  相変わらず無表情なザラが俺をチラリと見る。俺のズタボロの姿を見て、何をしていたかは察したようだ。  エドワードは俺にニッと笑いかけた。 「王子、勝負はお預けってことで」 「ああ……」  クラリス、俺は負けなかったぞ。  勝ってもないけど、負けてもない。  待ってろ、クラリス。  お前の願いを俺は叶えてやるからな。 「ああ、それと……次回から剣の鍛錬、強化しますんで」  エドワードが剣をしまいながら、俺にも懐っこい笑顔を見せ、サラッと恐ろしい事を言う。  この心身共にズタボロの状態の今、その台詞は……キツイ。はぁ……鍛錬、厳しくなるのかぁぁ……  うんざりした視線をむけると、ニヤニヤした顔で俺に現実を突きつけるエドワード。 「王子、学園の始業時間、とうに過ぎてますけど大丈夫ですか?」  ………………忘れてた。  俺は急いで、胸ポケットに入っている時計を見ると始業開始から1時間も経っている……今日も遅刻してしまった……  からかい口調のエドワードは斜め上を見ながら、明らかに俺に聞こえるように呟く。 「クラリスは時間にルーズな男って嫌いなんですよねぇ」  ゔっ……この元凶達めがっ! 大人げないぞ!!  こうしちゃいられないと、ボロボロの体でよろよろしながら馬車にむかうが、体のあちこちが痛くて、思うように動けない。  回復魔法、使っちゃおうかな。でも、俺、苦手なんだよな、回復魔法。それに……魔力もあまり残ってないし。 「はぁ……しょうがないですねぇ」  今まで黙って様子を見ていたザラの声が、小さな溜息とともに俺の耳に届いた。ザラは右手の指をパチンと鳴らす。  途端、俺の気力と体力がぐんぐんと……それはまるで泉に湧き出る水のように溢れ出す。ボロボロの体もすっかり元に戻り…………魔力までもが回復していた。  あまりにも強い回復魔法に驚き、体力が戻った俺は両手を見つめ、手のひらを閉じたり開いたりしてみる。さっきまで剣を握る力もギリギリだったのに、今はなんの苦もなく手を動かせた。  す、すごいな……指先1つ、しかも俺に触れずに、これだけの回復をさせるなんて。これが全魔道士の頂点に立つ男の魔法か……力の差は歴然だな……  あまりに強大すぎる2人の力を目の当たりにし、自分の無謀さがおかしくなり、クスッと笑う。  でも、絶対に絶対に諦めないからな。  ザラの方をむき、俺は感謝を込めペコリと頭を下げた。 「ザラ先生……ありがとうございます」 「そんな姿ではクラリスが心配しますからね」  ザラはチラッと冷ややかな視線を俺にむけ、いつも通りの無機質な声で言い放つ。御礼を述べながら、ふと疑問に思う。  ……そもそも、俺がズタボロなのはお前達の力作(ダンジョン)のせいだが?  まぁ、仕方ない。とりあえず、学園に行かなきゃな……早くクラリスに会いたい。  では……と俺は馬車に乗る為、急ぎ足で歩き出すと、背中からザラの声が聞こえた。 「言い忘れてましたけど、学園は、今日、臨時休校です」  ……  ……  ……  ……え?  俺は振り返って、ザラの顔を凝視するが、あまりの衝撃に言葉を失い、口をパクパクさせるだけだった。 「今日は学園休みですよ」  俺の顔を見て、もう1度、感情なく言葉を発するザラ。  …………や、す、み? 今、休みって言った?    俺は心を落ち着かせる為、1度、大きく深呼吸をし、目をつむる。  そして、ゆっくり目を開き、胸中で思いっ切り叫ぶ。  早く言えぇぇぇぇぇぇ!!  
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