お客が誰かは言ってくれ

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お客が誰かは言ってくれ

 あれから3時間が経ち、ようやく自室にたどり着いた、俺。  ああ、やっと休める……  2回目の穴に落とされた後、火の玉が飛んでくるわ、岩石が転がってきて追いかけ回されるわ、正しい道順で進まないと同じ所をぐるぐる歩かされるわ……もうヘトヘトだ。  ダンジョン攻略、行って帰って7時間……今日、俺、それしかしてないし。  疲労は限界……クラリスに会いたいなぁ。  こんな時でもクラリスを思い浮かべるなんて、俺も相当だよな……  クラリスの優しい笑顔を思い出し、クスッと笑いながら自室の扉を開けようと取っ手に触れた途端、ビリリッと雷に打たれた様な痺れが取っ手から伝わり、全身を駆け巡った。驚きでその場にしゃがみ込み、溜息をつく。  最後の最後まで罠がしかけられていたとは。  油断してた……それにしても……扉の取っ手に雷を仕込むなぁぁ!  全身……特に手の痺れが酷かったので、治まるまで、扉の前にしゃがみ込んでいると、疲れからかウトウトとしてしまい…… 「イテッ」  俺は後頭部に衝撃を受け、目が覚める。  室内から出てきた側近のナクサスが思いっきり扉を開け、俺は頭をぶつけてしまった。  ナクサスもまさか俺が扉の前で寝てるとは、思わなかったのだろう。  もぉぉ、踏んだり蹴ったり、だ。   「はっ? 王子? 何やっているんですか? 罰ゲームですか?」  ナクサスは俺を見ると怪訝そうに眉をひそめ、呆れ返った声を出す。  主人が扉の前に座って、頭ぶつけたんだ。他に言いようもあるだろう! 心配するなりなんなりしろよ。 「いろいろあってな。とりあえず、部屋に入れてくれ」 「はぁ……どうぞ」  やっと部屋に入れた……この部屋の(あるじ)は俺だけどな。 「ただいま。今日は学園、休みだって?」 「お帰りなさいませ。王子が出たあとに連絡が入ったのでお伝えできませんでした」 「そうか……まぁ、しょうがないな。今日の予定はどうなってる?」  今日中にこなさなくてはいけない公務があるかの確認をしながらも、(まぶた)が重くて下がってくる。疲労困憊の脳と体が休みたいと悲鳴を上げているようだ。  何もなければ……とにかく寝たい。 「いえ、本日はなにも。ただ、お客様がいらしてます」 「お客?」  俺は顔をしかめて、うんざりした声を出した。  約束を取り付けてない客は断れよなぁ。側近なんだから、それくらい気を回せよ。 「悪いが断ってくれ。今日はさすがに疲れた……」 「かしこまりました」 「まぁ、用件だけは聞いておいてくれ」 「かしこまりました」  俺は欠伸(あくび)をしながら、寝室にむかうが、なんだか気持ちの悪い違和感を覚える。  …………ん? あれ? このシチュエーション……前にもあったぞ。  ナクサスは毒舌で厭味ったらしい奴だが、超有能な側近だ。そのナクサスが俺のいない間に客を受け入れたっていうことは……  俺は足を止めて、振り返り、ナクサスの顔を見て問う。 「クラリスが来てるのか?」 「おや、王子も少しは賢くなられましたね」  飄々(ひょうひょう)と憎たらしいほどのすました顔で答えるナクサスに、一気に目も覚め、苦々しい視線をむけた。   「クラリスならクラリスと言えっ!」 「王子に聞かれませんでしたし、出過ぎたことは……お疲れのようでしたし。応接の間でお待ちです。お茶の準備はしておりますので」  なぁにが「出過ぎたことは……」だよっ!  いつも出過ぎたことばかり言ってくるくせに。  ナクサスはパンパンと手を叩き、使用人達に「さぁ、仕事ですよ」と皆を退室させる。  俺とクラリスを2人にしてくれる、ナクサスの心遣いだ。  ホント、ナクサスはデキる側近なんだよなぁ……嫌味っぽいけど。  使用人達が部屋からいなくなり、俺は疲弊していた気力と体力が嘘だったかのように心を弾ませ、応接の間の扉を開けた。
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