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人の話はちゃんと聞こう
「クラリス」
ソファーに座って、紅茶を飲んでいたクラリスが俺の声に反応して、顔を上げ、立ち上がった。
ああ、本物のクラリスだ……
「アルベルト様、突然お邪魔してすみません。今日は学園がお休みになったもので……用事はお済みになりましたか?」
オレンジのリボンでブラウンの長い髪をまとめ、優しい光を灯したブルーの瞳を少し細めてにっこり笑う。
朝からダンジョン攻略で心がささくれていた俺は、その笑顔にホッとし、ツカツカと一直線に歩いていき、力いっぱいクラリスを抱きしめた。
「クラリス、クラリス……」
何度も、何度も愛しい名を呟く。
「アルベルト様? どうなさったんですか!?」
いきなり抱きしめられたクラリスが俺の腕の中で戸惑いをみせたが、俺は、ただただ名を呼び続ける。
「クラリス……」
「アルベルト様……大丈夫ですか?」
いつもと違う様子にクラリスの心配そうな顔が俺を見上げ、俺は更に腕に力を込め、ギュッと抱きしめた。
「あの……ぴーちゃんが……」
脈絡なく、いきなりぴーの話をしだしたクラリスに俺は肩をピクリと震わせる。
後ろめたい事はないが……ないが……ない……いや、ちょっとだけあるけど。
でも、なんでぴーの話?
ぴーが、ある事ない事クラリスに報告したのか? いやいや、ザラに口止めされてたし、ぴーにとってザラの命令は絶対だしな。大丈夫だ。
「ぴーちゃんがそ……」
「俺といる時は他の事を考えないでくれ」
俺はクラリスの言葉を遮り、耳元で囁く。
抱きしめられている時に他の事を考えてるなんて、男としてショックだぞ。独占欲全開の台詞を言ってしまったが、いつだって俺の事だけ見ていて欲しいと思うのは、婚約者として当たり前だろ?
「でも……ぴーちゃんが……」
それでも、ぴーの話をやめようとしないクラリスに、俺は眉をひそめた。
あんなにはっきり言ったのに……鈍感すぎ。
「クラリス、ぴーの事は考え…………ぶほっ」
何かが頬にすごい勢いでぶつかってきた衝撃で、軽く吹っ飛ばされ、クラリスを抱きしめていた腕が離れる。
……えっ? えっ? 今、何があった!?
自分の身に何が起こったのか、皆目見当もつかず、呆然としながら、痛みがある頬を撫でる俺。
「ア、アルベルト様!? ぴーちゃん、どうしたの!?」
「クラリスガ、ヘンナオトコニ、イジメラレテルトオモッタノ」
ぴーがクラリスの肩にとまり、しゃあしゃあとさえずる。
あの衝撃はぴーが突撃してきたものだったのか……と、クラリスとぴーの会話で状況を把握し、俺は立ち上がりながら、ぴーを睨みつけた。
おーまーえー
嘘つけっ! 俺の部屋に変な男がいるわけ無いだろっ。これでも、一国の王子だぞ!
俺は心の中で毒づいた後、少し冷静になると、先程、自分が口にした台詞が脳裏に浮かび、顔から火が出るほどの羞恥心に襲われた。
クラリスがぴーの話をしだしたのは、俺の死角でぴーが突撃態勢にはいっていたからなのに……あんな独占欲の塊みたいなことを言って……俺、めちゃくちゃ恥ずかしい奴……
本当に穴があったら入りたい……今なら、落とし穴でもいい……
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