絶対あいつは焼き鳥に

1/1
前へ
/21ページ
次へ

絶対あいつは焼き鳥に

 クラリスをチラリと盗み見ると、俺が言った恥ずかしい台詞はなかったかのように、気が抜けるほどの……普通。  顔を赤らめるでもなし……心配そうに俺を見ているだけだ。    えっと……それはそれで……どうなんだろうな。  少しは照れるなり、なんなりしてもいいとは思うんだけど。  まぁ、クラリスの鈍感さは、今に始まったことじゃないので置いとくとして……俺は怒りの込めた目をぴーに向けたが、クラリスからは顔が見えない事をいいことに、してやったりと得意満面なぴー。  おっまえ、本当に腹立つ奴だな。 「アルベルト様!? 大丈夫ですか?」 「あ、ああ」  いや、痛いよ? 猛スピードで突撃されたし。でも、痛いなんて言ったら、ぴーに馬鹿にされるからな。 「アルベルト様、頬を見せてください……少し赤くなってますね……大丈夫ですか? 今、回復魔法を……」  クラリスは右手で俺の頬に触れ、回復魔法を放つ。    えっ……  俺は痛みより、クラリスの手の温かさと柔らかさの方が気になってしまい、顔がどんどん赤くなっていくのが自分でもわかる。クラリスはそんな俺を見て、困った顔をした。 「大変です! 赤みが顔全体に広がってます。どうしましょう……痛みは大丈夫ですか? 私の回復魔法じゃ駄目なのかしら……ザラ様に……」 「いやいや、ホント、大丈夫だから!」  ザラを呼びに行こうとしたクラリスの腕を掴み、慌てて止める。  ザラまで来られたら、たまったもんじゃない!  それに……なんていうか……クラリスの鈍感パワーは相変わらず絶好調。なんだか……ホッとする。  クラリスは迷いながらも、頬の赤みがなくなったのを確認し、安堵の表情を見せた。そして、肩にとまっているぴーに優しく語りかける。 「ぴーちゃん、私を助けようとしてくれたのは嬉しいけど、むやみやたらに突撃しちゃ駄目よ? もしかして、怖い人かもしれないでしょ? ぴーちゃんが怪我したら、私、悲しいわ」 「ゴメンナサイ」 「でも、助けてくれようとしたのね。ありがとう」    クラリス、違うぞ。騙されるな!  ぴー(あいつ)は、悪意ありありで俺に突撃したんだぞ。それに、あのザラが作っただけあって、魔法も多少使えるし、ぴーはそこそこ強いんだぞ? 「ぴーちゃん、間違っちゃったとはいえ、アルベルト様にごめんなさいしましょうね」 「ウン。ボク、ゴメンナサイスルゥ」  目をキラキラさせ、クラリスを見上げるぴーに「いい子ねー」と微笑むクラリス。  なにカワイコぶってるんだよ!  クラリスも甘やかしすぎだからなっ。  ぴーがパタパタ飛んできて、俺の肩にとまる。 「ゴメンナサイ」 「アルベルト様、私からも謝ります。ごめんなさい」  クラリスが俺にむかって頭を下げたのを見て、うっ……と言葉に詰まってしまう。  真相を知っている俺としては、ぴーに文句を言いたいところだが、小鳥相手に怒れば、器の小さい男になっちまうし……ぴーは書庫の件も知ってるからなぁ……読んでないのに、読んだことになってるのが悔しいが。 「あ、ああ、大丈夫だ」 「良かったわね。ぴーちゃん」 「ウン!」  嬉しそうなクラリスにかわいい声でぴーはさえずる。  ホント、声だけはかわいいよな。声は。  俺の思考を察したのか、肩の上にとまっていたぴーは鋭く足の爪を立てた。  いてーよ!! おい!  そして、クラリスがよそ見をしているすきに、俺の耳元で低く低く小さくさえずる。 「ケッ……」    俺は決めた。  絶対に焼き鳥にしてやる……と。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

42人が本棚に入れています
本棚に追加