幸せは長く続かない

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幸せは長く続かない

「ぴーちゃん、お仕事お願いしてもいい? エドワード様とザラ様のところに後ほど伺います。と伝えにいってくれないかしら?」  クラリスがぴーに笑顔をむけると得意気にパタパタと飛び立ち、部屋をくるりと一周する。 「ウン! イッテクルゥ」  ふーん……ザラやエドワードのところにも顔を出すのか……ふーん……ふーん……く、悔しくなんかないぞっ!  ぴーが部屋を出ると、静かな時間が流れ、2人っきりになった事を実感する。クラリスが紅茶を淹れてくれ、俺はカップを手に取り、コクリと飲んだ。  ふぅぅぅ……  やっと……クラリスとの時間を満喫できる。  今日は朝から疲れたもんなぁ。 「アルベルト様。これを……」  クラリスはリボンがかけてある箱を取り出すと、俺の前に差し出した。 「なに?」 「チョコレートです……」 「また、作ったのか?」 「はい……えっと……はい……バレンタインデーなので……あの……」  こころなしか、クラリスは頬を薄っすら赤くし、だんだん声が小さくなり、後半部分の言葉が聞き取りづらくなる。  ばれんたいんでぇ? なに? それ?  聞き慣れない言葉に俺がポカンとしていると、クラリスは慌てて、ぎこちない微笑みをむけた。 「な、なんでもないです。えっと……チョコレート作りすぎちゃって……あの、お裾分けです!」  お裾分けのわりに、かわいくリボンまでしてくれたんだな……赤くなってうつむいているクラリスがかわいらしくて、思わずにんまりしてしまう。 「開けていいか?」 「はい!」  嬉しそうに顔を上げ、元気な返事が聞こえる。  くぅぅ、かわいいな。  箱を開けると、まん丸のチョコレートがきれいに並べられていた。 「相変わらず、お菓子作るの上手だな」 「えへへ……」  少し照れたように笑う俺の婚約者はちょっと変わってる。令嬢がお菓子を作るって、最初は驚いたが、もう慣れた。それにクラリスのお菓子は美味しいし。  普段、甘い物をあまり食べない俺もクラリスの手作りだけは、絶対に完食する。絶対にだ。  なんなら、他の奴にあげたお菓子も回収して食べたいくらいだ……あれ? これってヤキモチか?  俺はチョコレートの箱をクラリスに「はい」と言って渡すと、クラリスは受け取りながら、目をぱちくりさせ、不思議そうな顔をする。 「食べさせてくれ」  朝から疲れ切っていた俺は、照れ、とか、恥ずかしいとかの感情を捨て、思いっきり甘える事に決めた。  こんな日々を送っていると、いつ邪魔されるかわからない。ダンジョン攻略も命懸けだし。恋人らしい事はできる時にしておかないと……って婚約者の筈なんだけどな!  クラリスはボッと赤くなり、「は、はい」とど真ん中の1つだけハートの形をしたチョコレートをそっとつまむ。 「アルベルト様、えっと……はい、あーん」  クラリスの手から食べさせてもらったチョコレートの美味しさは格別で俺の頬が緩む。口の中でゆっくり溶け、ミルク感の中にもビター感も見え隠れし、複雑な甘さを醸し出した。  俺の横に座ったクラリスが頬を薄紅色に染め、はにかんでいる姿が愛らしい。さすがの鈍感令嬢も照れているようだ。  俺はとてつもない幸福感に包まれ、今すぐクラリスを抱きしめ、キスしたい衝動にかられる。  やっばい……幸せだ。めちゃくちゃ幸せだ。  さっきまでダンジョンを攻略していたとは思えないほど……俺は幸せだ。 「美味しかったですか?」 「ああ……味見してみる?」  悪戯っぼく含みをもたせて聞くと、クラリスはクスッと笑う。 「そのチョコレート、1つしか入ってないのでムリです」  うん。知ってます。  ハートの形、1つしかなかったもんな。  一刀両断、バサッと切ったね。  いや、そうじゃなくてさぁ……  クラリスらしい返答だけど! 俺達は恋仲な訳で。ほら、そこはかとなくいい雰囲気なんだし…………はぁぁ……クラリス相手に遠回しな言い方をした俺が間違ってました。ごめんなさい。  俺は頭を掻きながら「いや、だから、そういう事じゃなくてさ……」とクラリスの肩をギュッと抱き、顔を寄せ、唇を(かさ)…… 「アルベルト! 遊びに来てやったぞっ!」  ゴンッ  勢いよく開いた扉と聞き覚えがある……というか、ほぼ毎日聞いてる親友達の声に慌てた俺は、誤魔化す為に咄嗟にテーブルにつっぷしてしまい、額を思いっ切りぶつけてしまう。  ほらな? 予想通り、すぐ邪魔されただろ?  それにしても……  お、ま、え、らー  毎度毎度、邪魔するタイミングが絶妙すぎなんだよっ!
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