42人が本棚に入れています
本棚に追加
幸せは長く続かない
「ぴーちゃん、お仕事お願いしてもいい? エドワード様とザラ様のところに後ほど伺います。と伝えにいってくれないかしら?」
クラリスがぴーに笑顔をむけると得意気にパタパタと飛び立ち、部屋をくるりと一周する。
「ウン! イッテクルゥ」
ふーん……ザラやエドワードのところにも顔を出すのか……ふーん……ふーん……く、悔しくなんかないぞっ!
ぴーが部屋を出ると、静かな時間が流れ、2人っきりになった事を実感する。クラリスが紅茶を淹れてくれ、俺はカップを手に取り、コクリと飲んだ。
ふぅぅぅ……
やっと……クラリスとの時間を満喫できる。
今日は朝から疲れたもんなぁ。
「アルベルト様。これを……」
クラリスはリボンがかけてある箱を取り出すと、俺の前に差し出した。
「なに?」
「チョコレートです……」
「また、作ったのか?」
「はい……えっと……はい……バレンタインデーなので……あの……」
こころなしか、クラリスは頬を薄っすら赤くし、だんだん声が小さくなり、後半部分の言葉が聞き取りづらくなる。
ばれんたいんでぇ? なに? それ?
聞き慣れない言葉に俺がポカンとしていると、クラリスは慌てて、ぎこちない微笑みをむけた。
「な、なんでもないです。えっと……チョコレート作りすぎちゃって……あの、お裾分けです!」
お裾分けのわりに、かわいくリボンまでしてくれたんだな……赤くなってうつむいているクラリスがかわいらしくて、思わずにんまりしてしまう。
「開けていいか?」
「はい!」
嬉しそうに顔を上げ、元気な返事が聞こえる。
くぅぅ、かわいいな。
箱を開けると、まん丸のチョコレートがきれいに並べられていた。
「相変わらず、お菓子作るの上手だな」
「えへへ……」
少し照れたように笑う俺の婚約者はちょっと変わってる。令嬢がお菓子を作るって、最初は驚いたが、もう慣れた。それにクラリスのお菓子は美味しいし。
普段、甘い物をあまり食べない俺もクラリスの手作りだけは、絶対に完食する。絶対にだ。
なんなら、他の奴にあげたお菓子も回収して食べたいくらいだ……あれ? これってヤキモチか?
俺はチョコレートの箱をクラリスに「はい」と言って渡すと、クラリスは受け取りながら、目をぱちくりさせ、不思議そうな顔をする。
「食べさせてくれ」
朝から疲れ切っていた俺は、照れ、とか、恥ずかしいとかの感情を捨て、思いっきり甘える事に決めた。
こんな日々を送っていると、いつ邪魔されるかわからない。ダンジョン攻略も命懸けだし。恋人らしい事はできる時にしておかないと……って婚約者の筈なんだけどな!
クラリスはボッと赤くなり、「は、はい」とど真ん中の1つだけハートの形をしたチョコレートをそっとつまむ。
「アルベルト様、えっと……はい、あーん」
クラリスの手から食べさせてもらったチョコレートの美味しさは格別で俺の頬が緩む。口の中でゆっくり溶け、ミルク感の中にもビター感も見え隠れし、複雑な甘さを醸し出した。
俺の横に座ったクラリスが頬を薄紅色に染め、はにかんでいる姿が愛らしい。さすがの鈍感令嬢も照れているようだ。
俺はとてつもない幸福感に包まれ、今すぐクラリスを抱きしめ、キスしたい衝動にかられる。
やっばい……幸せだ。めちゃくちゃ幸せだ。
さっきまでダンジョンを攻略していたとは思えないほど……俺は幸せだ。
「美味しかったですか?」
「ああ……味見してみる?」
悪戯っぼく含みをもたせて聞くと、クラリスはクスッと笑う。
「そのチョコレート、1つしか入ってないのでムリです」
うん。知ってます。
ハートの形、1つしかなかったもんな。
一刀両断、バサッと切ったね。
いや、そうじゃなくてさぁ……
クラリスらしい返答だけど! 俺達は恋仲な訳で。ほら、そこはかとなくいい雰囲気なんだし…………はぁぁ……クラリス相手に遠回しな言い方をした俺が間違ってました。ごめんなさい。
俺は頭を掻きながら「いや、だから、そういう事じゃなくてさ……」とクラリスの肩をギュッと抱き、顔を寄せ、唇を重……
「アルベルト! 遊びに来てやったぞっ!」
ゴンッ
勢いよく開いた扉と聞き覚えがある……というか、ほぼ毎日聞いてる親友達の声に慌てた俺は、誤魔化す為に咄嗟にテーブルにつっぷしてしまい、額を思いっ切りぶつけてしまう。
ほらな? 予想通り、すぐ邪魔されただろ?
それにしても……
お、ま、え、らー
毎度毎度、邪魔するタイミングが絶妙すぎなんだよっ!
最初のコメントを投稿しよう!