お約束です、落ちるのは

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お約束です、落ちるのは

 開かれた扉の前に立ち、右手で(こぶし)を作り、グッと握る。気合を更に入れ、ナクサス達に声を掛けながら、部屋を一歩出た。 「いってく……あっ」  部屋から一歩出した足の床がパカリと開き、挨拶を最後まで言う事ができず、真下に落下。  側近ナクサスの「あっ……」と言う声が辛うじて耳に届いたが、見事に俺は落とし穴にはまってしまった……早速かよぉぉ。  落ちていく感覚の中、右手に魔力を集中させ、下方に手のひらをむけた。  任せろ! 穴に毎日落ちれば、俺だって学習する。  落とし穴について、俺の右に出る者はいない…………落ちる方のな!  自信満々に魔法で風を出し、体を浮かせる。落ちた場所に戻ろうと風力を強め、チラリと得意げに天井を見ると……  落とし穴、塞がってるし!!  タンマ! タンマ!!  このままの風力じゃ天井に激突する!!  俺は慌てて、風力を弱め……プシュン……  えっ?    かわいい音をさせ、急速にしぼむ風力に俺は焦る。  弱めすぎたぁ! ちょうどいい風、出て!  魔道士らしからぬ、魔法調節を慌ててしていると、俺の脳内に響き渡る声がした。 『魔法もまともに使えないのですか? アホ王子』  このダンジョンを作った張本人、王宮魔道士長ザラの声だ。  チックショー  必死に風力の微調整を繰り返す。落下の勢いを抑え、叩き落とされる前に無事着地し、ふぅぅぅと大きく息を吐いた。  あーーー気が抜けねぇ。  息を整え、落ち着くと、落下中に聞こえてきたザラの嫌味にじわじわと反抗心が芽生えてくる。  だいたいさぁ、俺だって普通の状況だったら、風力調節なんて簡単にできるんだよっっ。  本人(ザラ)には(怖くて)直接言えないが、心の中で文句を言うのはタダだしな………… 『いつ何時(なんどき)も冷静に対処してこそ魔道士です。アホ王子』  ……げっ……ダダ漏れ……
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