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トゥルルルルルル、トゥルルルルルル、トゥルルルルルル、トゥルルルルルル……、
『ただいま、留守にしております。ピーッという音の後に……』
ガチャッ、ツー、ツー、ツー……。
1DKの部屋の中心にあるソファテーブルの前に座っていた吉村早紀は、チェスト上のコードレス電話機を見据えていた。それから、テーブルの上に置かれているスマホの時計に目を落とす。
PM 8:00
五日前から、必ずPM8:00にかかってくる電話がある。それは、必ず4回のコールの後、そして切れるのだ。
いまだに携帯電話を信用していない母からの厳命で、早紀は家に固定電話を置いている。どうも母の中では、家を持つということと、固定電話を置くということがセットのようなのだ。しかし番号を知っているのも、母と勤務先くらいなので、鳴ることはほとんどなかった。
それが、五日前、久しぶりに鳴った。一日目は、携帯の音かと勘違いして、出られなかった。二日目に鳴った時は、母かと思い、慌てて出た。しかし、電話に出て「もしもし」と言った瞬間、電話は切れた。三日目も電話に出たが、同じく切れる。怪訝に思った早紀は、四日目に留守番電話を設定した。だが、メッセージを残すことなく、切れた。そこで初めて、かかってくる時間が、PM8:00頃であると気づいた。
そして五日目の今日、掛け時計のない早紀は、スマホで時刻を確認する。やはり、PM8:00ぴったりにかかってきていた。
独り暮らしである状況も相俟って、一度気味悪さを感じると、それは増幅しやすかった。
理由が分かれば安心するだろうと思い、早紀はスマホでネットを開く。「電話、無言」などの文言で、検索をかけた。検索結果が表示される。いくつかのサイトによれば、電話番号が使われているか確かめるために、1コールだけ鳴らして回る業者があるらしい。
だが、1コールではない。必ず、4コールなのだ。
固定電話なんて殆ど使わないと高を括っていた早紀は、数百円の固定費をけちって、ナンバーディスプレイの設定をしていなかった。だが薄気味悪いので、明日ナンバーディスプレイの手続きしようと決め、焦るような手つきでリモコンを持ち、テレビをつけた。
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