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泰士さんが後ろから私を抱きしめて、純平くんの手を振り払った。純平くんに向けた冷たい言葉と反対に、私の背中は泰士さんの温かさを感じる。
私が誰に何をされても、泰士さんがきっと守ってくれる。
そんな確信を持ちながら、前に回された泰士さんの腕をぎゅっと掴む。
「うん、私が今好きなのは、泰士さんなの」
「そうか……未練があったのは、俺だけか……」
純平くんは地面を見つめ、悲しげに呟いた。一瞬だけ私に視線を向けてから、ゆっくりと歩きだす。
これからどこかに出掛けるのか、帰るのかは分からない。純平くんが今何をしているのかも知らないけど、私にはもう関係ない。
幸哉が、安堵のため息をついた。
「行きましょう。父さんたち、待っていますから」
「ああ。美琴、行くよ」
純平くんの後ろ姿をぼんやりと見ていた私は、泰士さんに手を繋がれた。
「はい」と返して、彼の手をしっかりと握る。
いけない、いけない。
純平くんが悲しそうだからと、いつまでも見ていてはいけない。
純平くんとのことは、ずっと前に終わったことだ。今さら思い出しても、良いことは何もない。
純平くんは地味な私が不満だったのか、派手なひとつ年上の先輩と寝た。
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