その、時。

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リビングに足を踏み入れると、電気もつけられていないからか暗くて。 廊下もそうだけど、誰も居ないみたいに真っ暗で。 目が暗闇に慣れて来た頃。 ぼんやりと、それは見えた。 リビングのカーテンレールで、紐を巻き付け首を吊る父親の姿。 一番初めに思ったのは、狡いな、って。 私だって…。 私の方が、死にたいのに。 父親の後を追うわけじゃないけど、私も死のう。 「…姉ちゃん…」 リビングと繋がっているキッチンの床に、 碧斗が座り込んでいた。 「…俺…。 父さんに一緒に死のう?って言われたけど…嫌だって言ったら…。 じゃあ、父さん…俺の目の前で…。 俺…止められなかった…。 もし、父さんを助けたら…俺を殺すんじゃないかって…」 最後の方は、嗚咽で何を言っているか分からない。 「碧斗、もしこの先誰かに訊かれたら、 私達は自分の部屋に居て。 その間に、お父さんは首を吊っていたって…。 そう、話そう」 碧斗を残して、私は死ねない。 私が碧斗を、守ってあげないと。
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