その、時。

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「私も弟も、相続放棄します。 だから、父親の借金も相続しない」 父親は、この人達だけじゃなく、 色々な所からお金を借りていたみたい。 父親の部屋の机の引き出しを見たら、色々な所からの催促状が出て来た。 一緒にあった、銀行の通帳はどれもすっからかんで。 残したのは、借金のみ。 「やっぱり、お前は馬鹿か? 俺らに、そんな常識が通用すると思ってたのか?」 そう言って一笑に付される。 私の口からも、自嘲のような笑みが溢れる。 きっと、この人達がそれで見逃してくれない事は分かっていた。 「私も弟も、本当にお金ないんですよ」 まだ手続きはしていないが、この先遺族年金はあるみたいだけど…。 それで、日々の生活費と、この人に多額の借金を返せるのだろうか? 大学を辞めて、働く事も考えているけど。 「なら、ちょと来い。 女、お前だけ車に乗れ」 その永倉二葉の言葉に、碧斗はさらに強く私の袖を掴む。 行くな、と言うように。 「分かりました。 碧斗、先に家に帰ってて」 そう言って、碧斗のその手を振り払い、 黒いベンツに近付いて行く。 永倉二葉がそのベンツの後部座席に乗り込み、私を促すように奥へとずれる。 乗り込んで、何処に連れて行かれるんだろうか、と、不安がないわけではないけど。 私は、そのベンツに乗り込んだ。 そして、自ら退路を断つように、ドアを閉めた。
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