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「こんな所迄来てごめんね。
働いてるお店に行ったら、奥村さん、入院が長引いてて、お店もそのまま辞めたって聞いて」
お店の方は、初めは欠勤にしていたが、
いつ退院出来るか分からないから、もう辞めた。
「私に、何の用です?」
そう睨み付けると、英二はちょっと苦笑している。
「んー、前にね、二葉さんから奥村さんに伝言あったの思い出して。
あ、もう、伝言じゃなく、遺言?」
そう言って笑っているのも、不快でしかない。
「また、私を騙すつもり?」
また、何かの罠だろうか?
「いや。もう二葉さんは居ないから、
奥村さん騙しても、もう何の意味なんてないし」
英二の言う通りなのかもしれないけど、
この人の事を疑ってしまう。
「二葉さんは、うちの組では突然行方不明になったって事になってんだけど。
この世界、行方不明イコール死んだって事だから。
今まで何人も、そうやって知り合いが行方不明になってる」
あの日、海に沈んだ永倉二葉は。
きっと、今も海の底だろう。
「前にね、二葉さんが、もし俺が急に姿を消したら、あの部屋のピアノを奥村さんにやる、って言っとけ、って。
そんな感じの事を、俺に言ってて。
それ、夕べ急に思い出して!」
その話は、本当なのかもしれないけど。
なんで、私にあのピアノを?
だって、あれは彼の母親の形見なのに。
「あのピアノ、前に永倉さんのお母さんの形見だと本人から聞きました。
だったら、私ではなく、永倉さんのお兄さんや弟さんが受け取るべきなのでは?」
「そうそう。俺もそう思って、お兄さんの一枝さんと弟の三咲さんに、その事を組長から話して貰ったの。
そしたら、二葉さんの意志だから、奥村さんに、って二人ともそう言うらしいから。
だから、受け取ってあげて」
そう、言われても…。
あれだけ大きなものだから、そんなすぐに今のマンションに運べないし。
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