その、後。

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もう二度と訪れる事はないと思っていた、永倉二葉のマンションの部屋。 あのまま自宅に戻らず、来てしまった。 玄関の扉を開けて足を踏み入れると、暫く人が訪れて居ない部屋はこうだよな、と思う雰囲気がある。 私はリビングに行くと、カーテンと掃き出し窓を全開に開けた。 あの夜、私がここに来なければ…。 永倉二葉の部屋は、相変わらず大きなグランドピアノがその存在を主張していて。 私はピアノに近付き、鍵盤の蓋を開けた。 ここに住んでいた時は、一度もこのピアノには触れた事はなかった。 勝手に触ってはいけないような気がして。 お母さんの形見だと聞いてからは、特にそうだった。 けど、このピアノはもう私にくれるらしいから。 なら、沢山触ってもいいだろう。 まるで、永倉二葉に触れるように、白い鍵盤に触れる。 そして、中指でそっと押してみる。 そうすると、音は出るけど、指を伝う違和感。 "ーーそのピアノは、もうちゃんと音が出ないーー" 以前、永倉二葉がそう言っていた。 もう一度、強く押す。 私は、グランドピアノの天板の蓋を開いた。 それは、とても重くて。 蓋を開き現れたものに、息を飲んだ。 そこには、敷き詰められるように、万札が沢山ある。 一体それがいくらになるのかは、見ただけじゃあ、検討もつかないけど。
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