その、時。

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「なぁ、どうするか考えてんのか知らないけど、お前断れると思ってんのか?」 口元は少し笑っているけど、 睨むような横目で見られる。 そうだった…。 この人達は、私に父親の借金を肩代わりさせようとしているんだった。 「別に、お前じゃなく、弟の方でも構わねぇ。 知り合いに、若い男が好きな奴が居て、そいつに弟を売っても」 「待ってください! 弟には、何もしないで下さい!」 「熱い姉弟愛。 俺、一人っ子だからその感じよく分かんないけど」 運転席の方から、英二の笑い声が聞こえる。 「―――お願いします。 弟には、何もしないで!」 再び、その言葉を重ねる。 「て事は、お前が父親の借金全額返してくれるって事でいいな?」 その永倉二葉の言葉に、うつ向くように、頷いた。 「お前、俺の女になれ」 「え?」 思わず、顔を上げ声に出してしまう。 「別に、付き合えって言ってるわけじゃない。 俺の好きにさせろ」 それは…。 要約すると、この人の都合の良い女になれって言われているのか…。 「―――もし、断ったら?」 そう訊くと、鼻で笑われた。 「俺の機嫌さえ損ねなきゃあ、 今以上、利子を上乗せしたりしない。 仕事も住む所も与えてやる。 で、弟にも何もしない」 つまり、私に断る権利はないって事。
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