彼の、事。

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彼の、事。

永倉二葉の女になってから、 一週間が過ぎた。 昨日、私と碧斗は社宅を出て、新しい家に移った。 それは、永倉二葉が所有している3LDKのマンションの部屋。 賃貸ではなく、持ち家らしい、それ。 その引っ越しを機に、衣服を冬物ヘと変えた。 10月中旬になり、最近急に寒くなったから。 あの日、ホテルでシャワーを浴び終えた彼は、 ベッドに居る私の元ヘと戻って来ると、 ポトリ、と私の横に鍵を落とした。 「近いうちに、此処に引っ越して来い。 弟も一緒で構わない。 あの家出ないといけないんだろ?」 「これは…」 どう見ても、何処かの鍵らしいそれを手に取る。 永倉二葉は、ベッドサイドに腰を下ろすと、 タバコを吸い始めた。 「俺の部屋の鍵だ」 「…あなたと、一緒に暮らすって事ですか?」 「俺は滅多にそこに帰らねぇから、 一緒に暮らすって言うと、ちょっと違うか」 一緒に暮らすわけではないけど、 この人の家に。 「部屋は3つあるから、空いてる2部屋お前ら姉弟で好きに使え」 そう言われ、少しどうしようか、と悩む気持ちはあるけど。 「分かりました。 ありがとうございます…」 この先、住む所のない私と弟。 この人がヤバい人だと分かっていても、 その手に縋るしかない。 「俺ここ出たら行く所あるから、 金渡すから、タクシー拾って勝手に帰れ。 その釣りとかいらねぇから、それで弟となんか食いに行け」 「…はい」 もしかしたら、それほどこの人は悪い人ではないのだろうか? そんな、ちょっとした優しさに惑わされそうになる。 その後は、この人とLINE等の連絡先を交換した。 その場で、そのマンションの住所と部屋番号をLINEして貰った。
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