彼の、事。

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「碧斗には、私はあなたに惚れたのだと、嘘を付きました。 話の流れ上、その方が都合が良くて。 それで、あなたに迷惑をかける事はないと思いますけど、 一応、伝えておきます」 「べつに迷惑かけられる事なきゃあ、どうでもいい」 そう言うその横顔を見るけど、 本当にカッコいい人だな、と思う。 ゾクゾクとするような、色気。 多分、私がこの人に惚れたのだという嘘を碧斗がすんなりと信じたのは、 この人の容姿が際立って端麗なのもあるだろう。 ただ、この一週間、ヤクザの男なんて辞めておけ、と何度も言われているけど。 「なら、弟の為にも頑張らないとな」 その言葉に、素直に頷いた。 この人のマンションの、この人が使っている部屋。 気になり少し覗いたが、そこはベッドとあるものがあるだけだった。 その、あるものは、黒いピアノ。 この人が、あのピアノを弾くのだろうか? その、長く綺麗な指で。
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