その、時。

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「君らのお父さん、うちらにお金借りておいて、返せないって」 先程の、冷たさを感じさせる男が、 次の瞬間、父の頭を強く踏みつけた。 ガン、と、床に父の顔がぶつかる音が響く。 「す…すみませんっ」 その父親の声は、泣いている。 「や、辞めて下さい!」 そう叫ぶ私を、父の頭を踏んでいる冷たい男が睨み付けて来る。 それに、体が震える。 「英二(えいじ)辞めてやれよ」 愉快そうに、ソファーに座っているもう一人の男が口にする。 その冷たい男、英二は、父の頭から足を退けた。 ポタポタと、少し上げた父の顔から血が床に落ちる。 それは、鼻血と口の中を切った血で。 「いくらですか? お父さんがあなた達に借りているお金は」 この人達は、多分、世間で言うヤバイ人達なのだと思う。 ヤクザ…闇金…違法な利子…。 色々と頭に浮かぶけど、大人しくその金額を返すのが、一番なのだと思う。 「利子とか色々入れて、現在ちょうど一千万円って所」 答えたのは、英二ではなく、ソファーに座る男。 多分だけど、この人の方が上司やリーダーなのだろう。 そして、一千万円という、大きな金額。 だけど、それは返せない額じゃなくて、安堵した。 「一千万なら、貯金を下ろせばなんとかなります。 お母さんの保険金とか…」 三年前、母親が胃癌で亡くなった。 その時の死亡保険金が、二千万円だったはず。 受取人は父親だったけど、私や碧斗の学費に使うと、その時に父親が言っていた。 現在、私は大学二年生で、そこからそれなりに使ったかもしれないけど、 余裕でまだ一千万円以上はあるはず。 それに、母親は専業主婦だったけど、父親は大手の食品会社に勤めていて、 給料も良かったから、その保険金とは別にお金はあるはず。
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