その、時。

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「英二、このガキの方、邪魔しないように押さえておけ」 「え、マジでやるつもりですか?」 英二は、蹴られたお腹を押さえて床に蹲っている弟を、動けないように腰の辺りを踏みつけた。 その男が、私に目を向けた。 喰われる、と感じさせるその目。 虎のような肉食動物が獲物を見るような、その目。 私はその男に背を向け、走る。 リビングを出て、混乱していたからか、 玄関ではなく、階段を上ってしまう。 後から思えば、この家から出てしまえば良かったのに。 外はすぐ道路で、人の一人くらいは歩いていたかもしれないのに。 助けを、誰かに求めれば良かったのに。 何故、私は…。 階段を駆け上がり、すぐの所にある自分の部屋へと入る。 中に入り、扉を閉めるけど。 鍵は、ない。 私は中から、扉に体重を掛けるように押さえる。 来ないで、来ないで。 扉の向こうから、階段を上がる足音が聞こえ、それが扉の板一枚を隔てた、すぐ、そこで、止まる。 押さえていた扉は、強い力で簡単に開けられて、 私はそれに弾かれ、バランスを崩して倒れそうになる。 なんとか両足で立つと、目の前にはその男が。 背が高いから、見上げてしまう。 黒い前髪が、少し目にかかっている。 私は振り返り、勉強机の上に置きっぱなしになっている、ハサミを手に取った。 それを握り、その男の方に再び体を向けた。 「―――これ以上来たら、殺すから」 その言葉が震えていて、自分が怯えている事を改めて意識してしまう。 カーテンが開いているから、夕日が部屋に射し込んでいて、男を照らしている。
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