その、時。

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「殺るなら、ここ狙えよ。 んなハサミじゃ、心臓迄刺さんねぇだろうし」 自分の首筋を、手で触れている。 その手は、とても指が長くて、綺麗。 「あんたなんか…殺してやる…」 恐怖からか、涙がこみ上げ、流れ落ちる。 「永倉二葉」 ながくらふたば、と、その男は言った。 それは、名前?この男の? 「お前が、殺す男の名前だ」 そう楽しそうに、笑っている。 永倉二葉は、ぐんぐんと私に近付いて来る。 私は後退り逃げるけど、背に何かが当たり止まる。 勉強机。 ハサミを持つ私の両手を片手で掴み、 その刃を自分の首筋に当てている。 「さっさと殺せよ。 この状況なら、もしかしたら正当防衛でいけるかもしんねぇな。 殺されそうになったから、刺したって」 私の手は、もうハサミを握るだけの力しか入らなくて。 それも、この人が掴んでなければ落としてしまいそう。 「殺らねぇなら、ヤッちまうけど」 その言葉と同時に、一体どうなったのか分からないけど、 強い力で腕を捕まれ、ハサミがその勢いで部屋のすみに飛ばされて。 勉強机の横にあるベッドへと、押し倒された。 「…痛いっ…いや…」 私の上に乗って来るその体を押すけど、それはびくともしなくて。 両手で顔を押さえられ、永倉二葉の顔が近付いて来て、そのままキスをされた。 わざとじゃないけど、それに抵抗した際に、この人の唇を噛んでしまった。 だけど、気にせずそのままキスを続けて来る。 私の口の中に無理矢理舌をねじ込まれると、 血の味が広がる。 初めて感じる、その他人の血の味。
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