その、時。

9/19
前へ
/200ページ
次へ
暫く、呆然と天井を見ていた。 私、犯されたんだ、とそう思う。 いつものように家に帰って来て、そこに居た知らない男に。 それに、父親の借金。 会社をクビになっていて。 社宅だから、この家にもいつまで住めるかも分からない。 もしかして、これってドン底ってやつ? 弟の碧斗は、どうしているのだろう? 私、自分が逃げるのに必死で、碧斗を見捨てて自分の部屋へと逃げ込んだ。 最後に碧斗を見た時、あの英二という男に足で押さえつけられていた。 父親は…。 お父さんなんか、もうどうでもいいや。 父親のせいで、私は…。 そう思うと、止まっていた涙がまたこみ上げて来て、目から溢れる。 ◇ どれくらい時間が経ったか分からないけど、 部屋が真っ暗で。 寝ていたわけではないが、何も考える事も出来ず、ただ時が過ぎるのを見ていた。 流石に、もうあの男達は居ないだろう。 私は体を起こし、衣服を整えた。 その際、お腹の上のそれに気付き、 あの永倉二葉という男に対して、憎しみが湧いた。 きっと、今ならば殺せる。 あの男に、ハサミを向けているのが今だったなら、私はその喉にハサミを突き刺しただろう。
/200ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1940人が本棚に入れています
本棚に追加