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「母さん」
私が待ち合わせの喫茶店に入るなり、そう呼ぶ声がした。
「母さん!」
私の反応が遅く、もう一度呼ばれた。
そんなふうに呼ばれるのは、かれこれ20年ぶりなのでピンと来なかった。
私はそっちへどんな顔をして、どれぐらいの速度で歩を進めるべきかわからなかった。
戸惑っていると、向こうから近づいて来てくれた。
「美希、なの?」
私は恐る恐る尋ねた。
「そうよ」
「大人になったのね……」
「当たり前でしょ?あのとき、あたしは15だったんだから」
一瞬、美希とはわからなかった。あどけなかったあの頃と、今、目の前にいる化粧をバッチリ決めた女性が結び付かなかったからだ。
しかし、笑うとあの頃の面影があるし、自分のことをあたしと言うことも変わっていなかった。
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