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帰り際、母親は私を呼び止めた。
「本当に彼でいいのね?子どもに罪はないけれどね。元気な赤ちゃん産んでね。
あなたも体に気を付けなさいよ。
いつか、お父さんの機嫌も治ると思うから
子どもができたら一度連絡して」
孫の顔を見れば、父親の気持ちも変わるのだろうか?
しかし、父親が美希の顔を見ることはなかった。
翌月、父親はくも膜下で命を落としたのだ。
私は孫を連れて母親をよく訪ねた。
孫をあやす母は嬉しそうではあったが、どこか寂しい目をするときがあった。
美希が産まれて一年後、弟の貴俊が結婚し、母親と同居した。
それで安心したのと子育ての忙しさから、私は実家と疎遠になった。
私が夫と娘を捨て、駆け落ちしてから一度だけ実家に電話を架けたことがある。
電話に出たのは母親だが、様子が変だった。
すぐに貴俊のお嫁さんの声が聞こえた。
「お義母さん、勝手に電話は取らないでね……」
私はすぐに電話を切った。
母親は認知症になっていたようだった。
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