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二人は花やしきに着くなり、チケットを買って入場した。俺は一瞬お金の心配をしたが、ポケットには普段から使っているベージュ色の折りたたみ式財布が入っていて、この間下ろしたばかりの一万円もきっちり入っている。このチケット代が現実世界で返金されるのか気になるところだったが、目の前にいるターゲットを見逃すわけにはいかない。俺は大人一枚でチケットを購入して、彼らの後に続いた。
俺は微かな記憶を呼び起こしていた。たしか勇気くんとチカちゃんは、遊園地内にあるアトラクションを一通り遊び尽くした後で、ベンチに座ってソフトクリームを食べる。そこで勇気くんが勇気を出して言うのだ。「好きです」と。
それは二人を一種の共同体に入れ込むきっかけである。つまり、チカちゃんは勇気くんの告白を受け入れる。それもそうだろう。これは俺が原稿用紙に書き込んだラブストーリーだ。ハッピーエンドで終わらなければ、よほど当時の俺が病んでいるとしか言いようがない。
遊園地で無邪気に遊ぶ二人を遠目で見ながら、俺は昔の哀れな青年時代を思い出してしまった。
俺は昔から、異性に対して強烈な恋心を抱き続けてきた。小学校のときは隣の席に座っていた明美ちゃんに、同じ器楽隊だった凛子ちゃん。中学時代は、同じ剣道部に所属していた蘭ちゃん。高校時代はたまたま一目惚れしてしまった一学年上のえり子さんに、同級生で同じ生物部だった唯ちゃん、たまたま図書委員で一緒になった一学年下のかえでちゃん。俺は飽きることなく、懲りずに女性を好きになり続け、一人恋焦がれ、唯ちゃんなどと一緒に帰ることになれば、カッコつけてポケットに手を突っ込んで缶コーヒーを飲むなどの愚行を繰り返してきた。
ただ、俺は小心者のくせに妙にプライドが高い、世間的に見れば「イタイ」人間だった。
「告白なんて、女性からしてくるものでしょう」
恋慕の情を抱いているのは、間違えなく俺だった。今から思えば、彼女たちに俺と同様の感情があったとは到底思えない。
だが、このときの俺は惨めなほど強がりだったから、告白なんて恥ずかしい行為ができるはずもなく、ただ時間が過ぎていく中で、ポケットに手を突っ込んでラブレターを渡される日をずっと待っていたのだ。
全く、愚かな男である。
結局、一度も告白をされることはなく、開けるくじの中身は全て「片想い」のまま散っていった。憐れなくらい結ばれる経験を得られなかった俺は、高校三年生の終わり頃になって、一本の小説を描いたのだった。
それが、今俺の目の前で描かれている物語だ。
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