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  「ジェットコースター、楽しかったね」  チカちゃんが笑顔で勇気くんに話しかける。 「そうだね。地面と近いから、妙な恐怖感もあるよね。さて、次はどこに行こうか」 「どうしようかなあ」 「チカちゃんが決めていいよ。僕はどこでも付いていくからさ」  勇気くんの格好は無様だが、女性に対する受け答えは丁寧で、自然とカッコいい男に見えてしまう。 「じゃあ、お化け屋敷で」 「オッケー」  そして、勇気くんは柄でもないことを言うのだ。 「怖かったら、いつでも僕の腕にしがみついていいから」 「ありがとう。勇気くんって、優しいね」  俺は、自然に会話できる男を夢見ていたのだろう。「優しいね」なんてグラングランに心を揺さぶってくれる、ハートフルな言葉に酔いしれたかった。  ここにきて、虚しさが爆発する。  二人がお化け屋敷に入っている間、俺はずっと回転木馬に群がる家族を見つめていた。三十を過ぎても、一度も異性と手を繋いだことがない人生。俺の未来に向けて敷かれているのは、ウェディングロードではなく茨の道。ガタガタで、ボコボコで、健気に生える雑草すらない、砂埃で目が痛くなるほどの荒野が広がる道しか築かれていない。四十になっても、五十になっても、俺のハートは半分のまま。月の満ち欠けなんて美しさは皆無で、硬いものをかじって歯が欠けるくらい残念な人生を送るのだろう。  嗚呼、一度くらい青春がしてみたかった。
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