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 二人が遊園地を出てきた。その手が繋がれているものだと勝手に想像していたが、俺の予想は大きく外れていた。 「勇気くん、酷いよ」 「ご、ごめん。怖くて」 「カッコつけているくせにお化け見て腰抜かしちゃうし、絶叫上げてわたしを置いていって、挙げ句の果てにはわたしにぶつかってきても謝らない。せめて謝ってもいいじゃない」  怒られている。勇気くんが、先ほどまでカッコよかったはずの勇気くんが、みっともなく叱咤されている。 「いや、暗闇だったんだから仕方ないだろう。それに、ぶつかってきたのはチカちゃんだぞ。僕は悪くないからね」  それどころか、勇気くんは途端に幼稚になって醜態を晒して、周りも気にせずチカちゃんに反発する、幼い精神の持ち主だったのだ。ドン引きしたチカちゃんに、「最低」とまで言わしめてしまう。 「あーあ。勇気くん、もっとカッコいい男だって思っていたのに。残念」  いや、おかしい。俺はここまで情けない男を描いた記憶はない。それにこの流れでは、ソフトクリームを食べる件に繋がっていかないだろう。あの二人は色恋沙汰の中で距離を縮めていかなければならないはずだが、これでは気持ちが離れていく一方だ。 「暑いな。そうだ、ソフトクリーム食べよう」  勇気くんが提案する。もしかして、俺の記憶にないだけで一度喧嘩をする場面を描いていたのだろうか。ソフトクリームを食べる件は、軌道修正のために用いられた荒業だったのだろうか。 「まあ、いいけど」  チカちゃんも了承する。 「じゃ、行こうぜ。奢ってあげるから」  少し上から目線な姿勢は癪に障るが、どうにか俺が覚えている限りの筋書き通りには進んでいる。  二人はショップでミルク多めのソフトクリームを買い、ベンチに座ってそれを食べようとした。 「あ!」  それは、あまりにも突然だった。なんと勇気くんがタイミング悪く転んでしまい、チカちゃんの衣服にソフトクリームをベットリと付けてしまったのだ。 「嘘でしょう」  感情が憤りに変わるチカちゃん。 「え、あ、え、あ」  感情が焦りに変わる勇気くん。 「もうダメだ。もうダメだ。おしまいだ。おしまいだ!」  焦りから絶望へとシフトして、ついにはその場から逃げ去ってしまった。 「最悪」  ため息をつくチカちゃん。自分のハンカチを取り出して拭いているが、どうにも拭き取れるサイズではない。ここは、大きめのタオルでも持っていれば救われるのだが。  ……。  俺は自分の首元にあるフワフワした感触を意識した。  これ、使えるじゃないか。  思わず俺は目の前にいる哀れな女性、チカちゃんに駆け寄って声をかけてみた。
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