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「田舎って大変なんですね……」
「はは、Wi-Fiは遅くても、人の噂は光よりはやいなんて言われてるからね」
田舎の恐ろしさを聞きながら、話が脱線していることに気づく。これをどう修正しようか。
「そういえば、明日は満月だね」
「はい?」
突拍子のない話の飛び方に、素っ頓狂な声を出してしまう。どういう思考回路を持てば、田舎の話から満月の話になるのだろう?
「ほら、儀式は満月か新月に行われるって、灯火くんが言っていただろう?」
苦笑しながら言う工藤に、冷や汗が背筋に流れる。それではますます灯火の危険性が高まってしまう。
やはり、灯火は待機させたほうがいいのではないか?
「だからこそ、行こうとするんだろうね。灯火先生は」
「え?」
どういうことか聞こうとしたが、工藤のスマホに着信が入ってしまい、聞くことができなかった。
キッチンの方から、「先生じゃないっ!」という声が聞こえてきた。
翌朝、椿が着替えてキッチンに行くと、ラップされた朝食が並んでいた。工藤が定位置に座って朝食を食べているだけで、灯火の姿は見当たらない。
「おはようございます、所長。灯火さんはどこに行ったんですか?」
「おはよう、河合さん。先生なら、用事があるって言って出ていったよ。夕方には帰るって」
そう言って工藤は、味噌汁を啜る。今日は紺野の家に行くというのに、随分呑気だ。
被疑者の家に行かずとも、殺人事件の捜査をしていれば、普通は殺伐としているはずだが、ここは殺伐とするどころか、アットホームな雰囲気だ。
「心配じゃないんですか?」
「まぁ、無謀なことをするような子じゃないから、大丈夫だよ。それより、はやく温めて食べたらどうだい? 灯火くんがふらふらしてる間、僕達は風俗街に行って聞き込みだよ」
「それはいいですけど、朝から風俗の店なんてやってるんですか?」
そういったものに無縁だが、風俗街というと夜の街のイメージが強い。そもそも昼間からやって人は来るのだろうか?
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