風変わりな新人

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「じゃあ、自己紹介でもしようか」 「アンタのことは知ってるからいい」  工藤が話を進めようとすると、灯火はそっけなく言った。 (こんなに無愛想な人と仕事だなんて……。というか、昨日のアレはなんだったの?)  昨日と打って変わって無愛想な灯火に、椿はげんなりする。職場の人間と過度に馴れ合う必要はないが、ある程度の協調性は必要だと心得ている。だが、灯火は協調性のカケラもないように見える。 「私は、」 「宮野椿」 「……っ!?」  灯火は先回りして椿のフルネームを口にする。名字は違っていたが。 「どうして、名前……。名字は違いますが……。昨日、自己紹介しましたっけ?」 「あれ、おかしいな。所詮夢は夢ということか」  灯火は椿の質問に答えようとせず、自問自答して納得する素振りを見せた。脈絡がめちゃくちゃで、椿には理解できない。 「夢? どういうことですか?」 「時々、予知夢を見る。それだけ」  それだけというが、1度も予知夢を見たことがない椿からすれば、信じがたい話だ。予知夢の存在自体を疑っているわけではない。夢に知らない人の名前を予言する力があるのか、疑問に思ったのだ。 「変わってるけど、有能だよ。彼は」  工藤がフォローを入れると、灯火は工藤を睨みつける。先程先生と呼ばれた時にも思ったが、彼はプラスの言葉を嫌う天邪鬼らしい。一緒に働くのが、尚更不安になる。 「ほら、君も自己紹介」  工藤が自己紹介を促すと、彼を睨みつけて舌打ちし、椿に向き直る。まっすぐこちらを見る目は、性格のわりには澄んでいた。 「灯火灯矢、しがない物書きをしている。普段は投稿サイトや合同誌で作品を掲載したり、台本を書いたりしている」  灯火は淡々と言うと、何かを思い出したように「あぁ」と声をあげ、ふたりの前に紙袋を置いた。椿にはワインレッド、工藤にはモスグリーンだ。 「あの、これは?」 「『これからお世話になります』っていう意味と、『荷物を運んでくれてありがとうございます』っていう意味が込められた粗品」  めんどくさそうに言いながら、灯火は白衣のポケットからラムネをいくつか出し、オレンジ色のラムネを選んで頬張った。
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