27人が本棚に入れています
本棚に追加
「21日も、ほとんど同じですよ。帰りが1時間遅かっただけで」
「どうして帰りが遅かったんですか?」
「墓参りの準備ですよ。何を買ってきたのかは知りませんけどね。お風呂と夕食を食べた後、寝台特急で青森に行ったんです」
投げやりに言う田宮に、椿は苛立った。
何がほとんど同じだ。全然違うではないか。どういう思考を持ったら、帰宅〜勉強と、帰宅〜寝台特急を同じようなものだと認識できるのだろう?
「全然違うじゃないですか……」
「私の仕事はほとんど一緒でしたよ。まぁ、21日はドラマじゃなくて、借りてきた韓ドラのDVDを観てましたけどね」
椿からすれば、これこそほとんど同じだ。国や内容は違えど、ドラマであることに変わりないのだから。
「そうですか、ありがとうございました。紺野さんからも直接お話を伺いたいので、帰ってきたら名刺を渡していただけますか?」
「はい、分かりました。旦那様にはちゃんと伝えておきます」
田宮は名刺を受け取って不気味な笑みを浮かべると、ポケットにしまってそそくさとリビングから出ていってしまう。
別に見送ってほしいわけではないが、客人を見送らないのは、やはり家政婦失格ではないのだろうか。
「次、行くぞ」
灯火は小声で言うと、椿が返事をする前に立ち上がり、リビングから出ていく。
「待ってくださいよ」
椿も後を追ってリビングから出ようとするが、ドアのすぐそばにあるキリストの彫刻にぎょっとした。場所が場所だから、入った時は気づかなかったのだろう。
廊下を歩く時も美術品を見てみると、何かの儀式の様子や魔法陣、棺から這い出て来る男など、不気味な絵画ばかりだ。
彫刻もよく見てみると、絵画の中で生贄にされていた人物と酷似していたり、キリストのように磔にされている人間だったりと、生と死を連想されるものが多い。
中でも印象的だったのは、”再生と破滅”という絵画で、男性にも女性にも見える中性的な人物の顔の右半分と右肩が骨になっており、人間の形が作られている途中にも、形が崩れていこうとしているようにも見える。
その人物は、どことなく灯火に似ているような気がした。
最初のコメントを投稿しよう!