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紺野の屋敷を後にしたふたりは、今井直政の家を訪ねた。インターホンを押すと、小柄な中年女性が出てきた。彼女は訝しげな目でふたりを見上げる。
「どちら様でしょう?」
椿が警察であることと、首切り事件について聞きたいことがあると言うと、彼女は狼狽えた。
「しゅ、主人が関係してるっていうんですか?」
「いえ、犯行が犯行なだけに、外科医でないとできないので、すべての外科医に聞いています」
本当は外科部長だから疑われているのだが、余計なことを言って彼女を不安にさせてはいけないと思い、咄嗟に嘘を吐く。
「そうですか……。その、首切り事件って、具体的にどんな事件なんですか? ニュースで名前は知ってたんですけど、内容をよく聞いていなくて……」
「若い女性が首を切断され、公園に遺体が捨てられていたんです」
灯火が淡々と説明をすると、今井夫人は顔を真っ青にし、口元をおさえた。
「そんな、なんて恐ろしい事件なんでしょう……」
「大丈夫ですか?」
椿が気遣うと、夫人は思い出したように声を上げた。
「せっかく来てくださったのに、おうちに入れなくてすいません。上がってください」
「お邪魔します」
ふたりは家に上がると、キッチンに案内された。職場住宅のように、キッチンにテーブルが置いてある家だ。
夫人は電気ポットで緑茶を淹れると、人数分の湯呑みに注ぎ、ふたりの向かいに座った。
「ありがとうございます。さっそくで悪いんですが、今月の20日と21日の夜、今井さんは外出したりしてませんでしたか?」
「つい最近のお話ですね。えっと、20日は部下の方、野崎さんを連れて、うちで呑んでいましたね。どこに寄ることもなく、まっすぐ帰ってきて、ずっと家で呑んでいましたよ。
外に出たって言っても、玄関先で野崎さんを見送っただけです」
緊張のせいか、夫人は視線を泳がせ、そわそわしながら話してくれた。
忙しなく手遊びをし、小刻みに震えている夫人を見ていると、可哀想に思ってしまう。
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