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「21日は、昨日のお詫びと言って、私を外食に連れて行ってくれましたよ。時間からして、その日もまっすぐ帰ってきたんだと思います。
帰った後はお風呂に入って、そのまま寝たので、主人ではないと思います」
「話してくれてありがとうございます。確認のため、お店の名前を教えてもらっていいですか?」
夫人から店の名前を聞くと、椿は名刺を置いてその場を後にした。自分の名刺が切れていたため、工藤の名刺を置いていった。
ふたりは今井夫妻が行ったという店と、部下の野崎に話を聞きにいった。
店主はふたりのことを覚えていた上に、監視カメラの映像までくれた。野崎も今井家に上がり込み、彼と酒を呑み交わしたと証言した。
ふたりが職場住宅に帰ったのは、空が真っ黒になった夕方6時過ぎ。
工藤が既に帰っていたため、リビングは暖かい。
「ふたり共おかえり。どうだった?」
椿は高橋の腕の特徴や、紺野のアリバイは家政婦との口裏合わせの可能性があること、今井のアリバイは完璧だったことを報告した。
「そっか、よくやったね」
「ありがとうございます。所長は、何か収穫はあったんですか?」
「あぁ、あるよ」
そう言って工藤は、新聞のコピーをふたりに見えやすいように向きを変えて置いた。そこには8年前に輪廻学会という宗教が起こした事件について書かれていた。内容は灯火から聞いた事件とほぼ一致しているが、彼の口から語られた事より、情報は少ない。
灯火が言っていなかったことと言えば、生贄にされそうになった少年のイニシャルがTということくらいだ。
「これは、君が言っていた事件で間違いないね?」
「あぁ、間違いない」
「ここに書かれてないことを、君は知っていたね」
「本人から聞いたからな」
灯火は眉間に皺を寄せながら、ぶっきらぼうに答えると、これ以上話したくないと言わんばかりに顔をそむける。
「ここに書かれているT君って、君のことなんじゃないかな」
灯火は一瞬目を見開くも、嘲笑的な笑みを浮かべ、鼻で笑った。
「灯火灯矢はペンネームだ」
「僕は君の本名も知っている。本名の方も、イニシャルはTだね」
「イニシャルがTの男なんて、どこにでもいるだろ」
灯火が悪辣な笑みを浮かべたまま嘲ると、工藤はため息をついた。まるで期待していた相手に落胆するように。
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