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「まだ気づかないのかい? 人から聞いたにしては、君はあまりにも詳しすぎる。それに、こっちには証人もいるんだ」
「所長、もうやめてください。未成年がこんな事件に巻き込まれたらトラウマになることくらい、分かるでしょう?
事件のためとはいえ、これ以上灯火さんの古傷をほじくり返すようなマネはしないでください」
いてもたってもいられず、椿は灯火をかばうように、ふたりの間に立つ。工藤は険しい顔で椿をじっと見る。工藤の無言の圧に気圧されそうになるが、負けずに睨み返す。
「はははっ、カッコいいね」
沈黙を破ったのは、灯火だ。驚いて振り返ると、彼は楽しそうに笑っていた。
「ありがとな。けど、いい。アンタが言う証人ってのは、どうせ御堂さんのことだろ?」
灯火は労るように椿の肩を軽く叩くと、前に出た。
「あの優男の口を無理やり割るなんて、やっぱりひどい男だな」
「それは自覚してるよ。君の知ってることを話してくれるね?」
「話すのはいいが、長話になる。ホットチョコレートでも作ってやろう。整理する時間がほしい」
そう言って灯火は、キッチンへ向かう。椿もそれについていった。今の工藤とは、一緒にいたくなかった。
「チョコのつまみ食いでもしにきたか?」
灯火はチョコレートを刻みながら、茶化すように言う。
「違います。今の所長と、あんまり一緒にいたくありません。それに……」
「心配だったから」と言いたいが、女性嫌いの彼に言ってもウザがられてしまうだろうと、ためらった。
「『灯火さんが心配だったから』?」
「え?」
言いたかったことを灯火の口から聞き、椿は目を丸くする。灯火はこちらを見ると、おかしそうにクスクス笑う。
「おせっかいなお前の言いたいことは、だいたい分かる」
「おせっかいって、こっちは心配して……!」
「それも分かってる。最初はウザかったけど、今はありがたいよ。特に、さっきは助かった」
「けど、結局話すんですよね?」
儀式がどのようなものかは想像もつかないが、生贄にされかけたのだから、きっと辛い思いをしたはずだ。それを話させるのは、やはり抵抗がある。
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