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「輪廻学会が近づいてきたのは、父親の葬式だった。弱りきった祖父母に寄り添うふりをして、入信させたんだ」
「人が弱ってるところにつけこむなんて、酷い……」
「心が弱っていると、まともな判断ができなくなるからな。大切な人が死んだら尚更だ。死者蘇生の研究をしてるアイツらには、格好の餌食だろ」
灯火は吐き捨てるように言うと、ホットチョコレートを飲む。椿も落ち着こうとひと口飲んだが、気持ちが癒えることはない。
「君が生贄にされるきっかけは?」
「確か、高校1年生の夏休みだ。あの時は……」
灯火はうつむき、唸り声を上げる。やはり、当時のことを思い出すのは灯火にとって苦痛なのだろう。
「あぁ、そうだ。あの頃は、特異能力を持つ探偵を書いてたんだ。左目で人への想いが見える探偵だ」
どうやら当時憑依していたキャラクターを思い出していただけで、苦痛でうつむいていたわけではないらしい。安堵するが、気が抜ける。
「その探偵……、ユキっていうんだが、ユキに憑依されてるところを、偶然祖母に見られたんだ。
普通だったら、子供のごっこ遊びとか、精神病を疑うと思うんだが、すっかり洗脳された祖母は、俺を神の子だと思い、教祖に突き出した」
「神の子? それは具体的にどういうものなんだい?」
「死者を蘇らせるための鍵だ。神の使いとも言われていた。
悲しみを癒やすため、自らを犠牲にして死者を蘇らせる存在だってな」
「そんなの、あんまりです……!」
椿はつい声を荒げてしまった。
灯火の憑依体質は、常人では理解しがたいだろう。それでもひとりの人間だ。他と違うからといって、犠牲にしていいはずがない。
「その頃はもう、考えることを放棄していたからな。身を清めるための献立表を渡されるから、それどおりに作ればいいし、掃除だって火曜日はリビング、水曜日はトイレ掃除といった具合で、何曜日にどこを掃除するか決められていた。
それに、思考を放棄して全部教祖に委ねれば、楽になれると信じていたからな」
「洗脳されると、それが当たり前になってしまうのでしょうか……?」
無信仰な椿には、得体の知れない神や、教祖の言いなりになってしまう人の心理が分からない。
いくら祈っていいことをしても、祈っているだけでは叶わないことは、身を持って知ったから、尚更だ。
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