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「見ている限りではそうなんだろうな。特に日本人は、皆同じであることに安心感を得るだろ? 輪廻学会の施設内では、誰もが同じ服に同じ仮面。おまけに髪色もほとんど同じ色だったからな」
「髪?」
「染めてはいけないっていう決まりだったんだよ。髪を染めた状態で入信した奴は、男だったら坊主に、女だったら真っ白な頭巾を被せられる。ある程度髪が伸びると、染めた部分を切り落としていた。
髪を染めるのは自然への反逆行為だから汚れるっていう教えだったからな」
灯火はうんざりするようにため息をつくと、小さくあくびをした。
「はぁ、疲れた……。どこまで話したっけ?」
「君の憑依体質がおばあさんにバレて、教祖に突き出されたところまで」
「あぁ、そうだ。突き出された俺は、教祖に色々聞かれた。ほとんど憑依体質についてだがな。
取り憑いていた霊は誰なのかとか、どうやって憑依させていたのかとか、憑依されている最中に意識はあるのか、とか」
「君に憑依しているのは、霊ではないよね?」
それは椿もずっと引っかかっていたことだ。灯火に憑依するのは霊ではなく、彼が創り上げたキャラクターであって、霊とはまったくの別物だ。
そのことを説明すれば、生贄にされないのではないかと、ずっと考えていた。
「アイツらアホだからな……。ダイヤの原石と同じで、磨けば光るなんて言い出した。『あなたは神の子です。奇跡が起こるその日まで我々がお守りします』なんてほざきやがって。俺は監禁され、清めるために色々された。
着るものは白装束のみで、下着も禁止。食べ物はただでさえ質素だったのに、余計質素になった。
毎日水の中に何時間も入れられたし、体内の瘴気をすべて吐き出すためと言って、森の中に放置されたこともあった」
「森に放置って……」
想像を絶する浄化作業に、ゾッとした。どれも虐待にあたる行為で、命を落とす可能性もある。
椿は改めてカルト宗教の恐ろしさを知った。
「アイツら、人工物を悪と思っているところあるからな。そのくせネットでも入信者募集してるんだから、矛盾もいいところだ」
そう言って灯火は、ホットチョコレートを飲み干した。椿もつられて飲むと、ホットチョコレートは既にぬるくなっている。
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