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「この記事によると、幹部のほとんどは逮捕されていたそうだね。
今回の被疑者……、今井直政と紺野真司の写真を見せても無反応だったけど、彼らの顔は知らないのかい?」
「教祖と幹部は、仮面をしていたからな」
「そう。じゃあ、次の質問。君はいつから、輪廻学会が魂循教になったことを知ってたんだい?」
工藤の問いに、椿は絶句する。言われるまで気づかなかったが、初めて魂循教の話が出た時、灯火は同級生の家族が魂循教に入信していたと言っていた。だが、その頃はまだ、輪廻学会だった。
灯火は輪廻学会が魂循教になっていたことを知っていたということになる。
「相変わらず鋭いな……。言っておくが、隠してたんじゃない。言い忘れていただけだ」
灯火は舌打ちをしてそう前置きをすると、輪廻学会について語り出す。
「魂循教の存在を知ったのは、今から3年前だ。小説を書くために、輪廻転生について検索してたら、魂循教のホームページがトップで出てきた。
まさかと思ってホームページを見たら、輪廻学会と同じようなことが書かれてた。
変装して講演会に行ったら、輪廻学会の幹部がつけていたのと同じ仮面をつけた奴が、つまらないことをベラベラと喋っていた」
椿は灯火の勇敢さに、言葉を失った。普通だったら、自分を苦しめた宗教と酷似した宗教を見つけたら、見て見ぬふりし、平穏な生活を送ろうとするだろう。
変装をしてもバレる可能性があるというのに、講演会に行くなど考えられない。
「君は輪廻学会に、命の危険にさらされたんだよね? 何故講演会に?」
「……怖いからだ……」
しばらく押し黙った後、灯火は重々しく口を開く。その目は微かに潤んでいた。
「もしアイツらだったら、逃げなければいけない。今度こそ殺されるかもしれない。そう思ったら、確かめずにはいられなかった……」
「灯火さん……」
たまらなくなり、彼の名を呼ぶと、灯火は大きく息を吐いて背もたれによりかかった。
「これ以上は勘弁してくれ。流石にしんどい」
「もう質問はないよ。協力してくれてありがとう。お礼に今夜は、君が行きたいところで食事をしよう」
「ケーキバイキングがある店」
「うん、ホテルのビュッフェ行こうか」
途端に甘くなる工藤に、椿は頭を抱えた。
ビュッフェ代は経費なのか、それとも工藤の自費なのか。工藤なら、経費にしかねない。
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