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翌朝、キッチンに行くと鮭の塩焼きに厚焼き卵、味噌汁ににくじゃがと、日本人好みの朝食が並んでいた。
「わぁ、美味しそうですね」
「あと1品ある。ちょうどできたところだから、テーブルに並べてくれ」
作業台の前に立つ灯火を見ると、いつもはハーフアップにしている髪を、ポニーテールにしていた。彼がシンクの前に移動すると、作業台の上に3つの小鉢が並んでいた。
小鉢の中には、ほうれん草の胡麻和えが入っていた。盛り付けも綺麗で、料亭に出てきてもおかしくない。
「おはよう。今日は河合さんに先を越されちゃったね」
「おはようございます、所長」
「おはよう、灯火くん。綺麗なうなじがよく見えるね」
「黙れセクハラ眼鏡。さっさと茶淹れろ、殺すぞ」
朝から随分賑やかだ。まるで昨日までのギスギスした空気が嘘のよう。椿は内心安堵しながら、指定席に座る。
お茶を淹れた工藤と洗い物を終えた灯火が座ると、椿のスマホに着信が入った。知らない番号からだ。
『もしもし、警察の人? 確か、河合さん?』
無愛想な女性の声が、面倒くさそうに言う。この声と態度は、きっと田宮しのぶだろう。
「えぇ、河合です。田宮さんですか?」
『そうです。旦那様が、明日の夕方になら話せるとのことです』
「具体的に、何時頃がよろしいでしょうか?」
『5時半あたりから大丈夫そうですよ。ちゃんと伝えましたからね』
田宮は舌打ちをしてから時間を伝えると、一方的に切ってしまった。
「誰だったんだい?」
「田宮しのぶです。紺野真司の家政婦の。明日の5時半頃からなら、話ができるとのことです」
「そっか。これで進展があるといいんだけど……」
そう言って工藤はため息をつく。犠牲者が既に3人も出ている上に、今度は誰かの胴体と心臓と血が狙われているのかもしれない。灯火が狙われている可能性だってある。
きっと警察としても、友人としても、気が気でないのだろう。だからこそ、灯火から情報を引き出そうとしていたのかもしれない。
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