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「おや、今度は僕だ」
工藤のスマホに着信が入った。彼はディスプレイを見るなり、顔をしかめる。
「知らない番号だ……。もしもし?」
工藤は電話に出て、一言二言言葉をかわすと、ちらりと椿を見た。
(あ、そういえば……)
自分の名刺を切らしてしまい、今井夫人に工藤の名刺を渡したことを思い出す。夫人には上司の連絡先だと伝えたが、肝心の工藤本人には、何も言っていなかったのだ。
「今日の午後2時、今井直政のところに行ってくれるかい? 彼、奥さんから話を聞いて急いで帰ってきたそうなんだ」
「分かりました。あの、私の名刺がなくなってしまって、所長の名刺を渡してしまいました。すいません」
「大丈夫だよ。にしても、今井はどうして急いで帰ってきたんだろうね?」
「事件の話は後にしろ。飯がまずくなる」
ずっと押し黙っていた灯火が、不機嫌そうに言う。椿としてはまだ話したいことがあったが、こうなっては仕方ない。
食事が終わると、工藤と椿で洗い物をする。それが終わると、お茶を淹れてソファに座る。
お茶をそれぞれの前に置きながら、捜査1課が見たら怒鳴り散らすだろうと思った。
彼らは睡眠時間さえも削り、死に物狂いで犯人を見つけ出す。他の課とぶつかり合って効率が落ちているのが至極残念ではあるが。
「そういえば灯火さん。あの家政婦、見覚えありませんか?」
「この前俺達をつけ回していた女だろ。けど、その前に会ったことあるような気がするんだよな……」
灯火は背もたれに寄りかかり、腕を組んで天井をじっと見る。数秒後、「ダメだ」と言って諦めた。
「それ、初耳だけど詳しく聞かせてくれる?」
「はい」
椿は相談内容を伏せつつ、この前駅で女性に付け回されたことを工藤に報告した。工藤は話を聞き終えると、難しい顔をして小さく唸る。
「うーん、怪しいね……。灯火くん、その人、輪廻学会にいなかった?」
「んー……。8年も前だからな」
灯火は再び天井を睨みつける。はやり思い出せなかったらしく、諦めてしまった。
「思い出したら言って」
「ん」
灯火が短く返事をすると、会議が本格的に始まった。
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