パーツ紛失事件

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「ふたりの親戚や患者で、行方不明になった該当年齢の女性がいないか探してみないか? 結果がどっちに転んでも、残りの犠牲者の数が分かるだろ」 「確かに。一応聞くけど、灯火くんはどっちが怪しいと思う?」 「本人を見てないのに、そんなことを聞くのか?」  灯火は顔をしかめると、瓶から大量のラムネを出してガリゴリと音を立てた。 「けど、家には行ったんだろ?」 「……胡散臭いくらいに、紺野が怪しい。まるで『犯人は俺ですよ』とでも言ってるようだ」 「例えば?」 「彫刻と絵画が美術館よろしく飾ってあったが、儀式の絵だったり、生死にまつわるものばかりだった。  それに、家の中が薬品臭かった。家政婦は防腐液を作っているからだと言っていたが、防腐液はホルマリンを主成分にして作られている。  けど、あの匂いはホルマリンの類ではない」  工藤は顎に手を添え、考え込む。椿は灯火を捜査から外すことを祈った。 「きな臭いね」 「やっぱり、灯火さんを同行させるのは危険なんじゃないですか?」 「俺はもう子供じゃない」  そう言って灯火はそっぽを向くが、そういう問題ではない。今の話を聞く限り、彼らはわざと宗教をチラつかせ、灯火をおびき寄せようとしている可能性が高い。それが分かっているのなら、何か対策を立てるべきだ。 「策がない状態で灯火くんを向こうにやるつもりはないから、安心して」 「安心できません」 「過保護め」  灯火は恨めしそうに言うが、相手は命に尊さを感じていない殺人鬼だ、リスクは極力避けるべきだろう。 「はぁ、めんどくさい……。ふたりで捜査にでも行ってこい。その間、俺は仮眠してるから」  そう言って大きなあくびをすると、灯火はソファに寝そべってしまった。 「捜査の内容が内容だし、僕達で行こうか」 「昨日まであんなに厳しかったのに、また甘やかすんですか……」 「そうだな、まずは今井直政から調べよう」  工藤は聞こえないふりをして立ち上がると、コートを羽織ってリビングから出ていってしまった。  椿は渋々後を追う。
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