パーツ紛失事件

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 椿達がワゴン車に乗り、工藤がエンジンをかけると、彼のスマホに着信が入った。 「今日は朝から電話が多いね」  工藤は苦笑しながらディスプレイを見ると、訝しげな顔をする。 「御堂刑事だ、なんだろう?」  小首を傾げ、工藤は電話に出る。 (なんで御堂刑事が?)  彼は捜査1課の仕事で忙しいはずだ。だからこそ、この事件は隔離特殊捜査班で引き受けたのだ。  違う用件かもしれないと考えたが、御堂が工藤に連絡することといったら、事件のこと以外にない気がした。 「え? そうですか、忙しいのにすいません。……ありがとうございます、では」  工藤は電話を切ると、エンジンを切って椿に向き直った。 「御堂刑事が青森に行って、紺野の親戚や患者で行方不明になった者がいないか、調べてくれたらしいよ」 「どうして御堂刑事が……」 「灯火大先生だよ。本当に、やってくれたよ……。とりあえず、戻ろう」  聞きたいことはいくつもあったが、灯火が関わっているのなら、職場住宅に戻るしかない。  シートベルトを外すと、工藤と共に職場住宅に戻った。 「随分とはやかったな」  灯火はちらりとこちらを見ると、あくび混じりに言った。 「御堂刑事が青森から連絡してきたよ。君、とんでもない無茶振りをしたね」 「言いがかりだ。俺はできたらでいいと言った。だから、ちゃんと行ってくれるとは思わなかった」  工藤が厭味ったらしく言うと、灯火はむすっとして返した。 「まぁ座れよ」  家主のような言動に、椿は呆れ返る。実際、灯火はここに住んではいるが、ここは警視庁の所有物だ。 「それで、御堂さんはなんて?」  ふたりが向かいのソファに座ると、灯火は起き上がって工藤に聞いた。 「君は聞いてないのかい?」 「所長殿に連絡するように言ったからな。それで、行方不明者は?」 「紺野百合子、20歳。誕生日会をするために友人のところに出かけたまま、帰ってこなかった。  男性嫌いだったが、紺野真司には懐いていたらしい。詳しい資料はメールで送ったと言っていたから、さっそく見てみようか」  工藤は自分のデスクに行くと、中腰でノートパソコンを操作し、印刷物を3人分持ってきた。
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