パーツ紛失事件

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 ”紺野真司周辺人物について  12年前、婚約者が事故死。ふたりの交際は周りに反対されていた。反対理由は様々だったが、婚約者の女性との身分差が1番の理由と推測。婚約者の名前は誰も口にしたがらないため、未だ不明。  紺野真司よりも身分が低い女性。  婚約者が亡くなった2年後、見慣れない人達が紺野真司のアパートに出入りするようになる。紺野真司と歳が近そうな若い男女。大学の友人だと説明していたが、薬品の匂いなどがしていたため、当時は危険ドラッグを疑われていた。  婚約者を失った同情で、通報はされなかった。  10年前、姪の紺野百合子が行方不明に。友人の誕生日会に向かう最中、行方をくらました。  時間を過ぎても百合子が来ないことを不審に思った友人は、彼女の携帯電話にかけるが、繋がらないため、家に連絡したことで発覚。  捜索するも、手がかりすら発見できていない”  上記の短い報告文と共に、2枚の写真が添付されていた。どちらも古い写真を撮ったもので、1枚目は水色のワンピースを着た女性が、若かりし日の紺野と一緒に写っているものだ。  きっと彼女が婚約者だった女性なのだろう。可愛らしい顔立ちで、左目元に、ふたつのほくろが斜めに並んでいる。この顔に、椿は見覚えがあった。紺野の自宅の玄関に飾ってあった絵画の女性だ。  思わず声を上げそうになったが、話をするのは2枚目の写真を見てからでいいと思い、黙っておく。  2枚目はダボッとしたシャツにジーパンを履いた少女だ。ソフトクリームを片手に、こちらにVサインを向けている。  彼女は行方不明になった紺野百合子。この頃は、輝かしい未来を奪われるとは思ってもみなかっただろう。 「これで今井直政の周辺を調べる必要はなくなりましたね」 「その代わり、違うことを調べないといけないけどな」 「何を調べるんです?」  椿の問いに、灯火は「嘘だろ」と言わんばかりに目を見開く。この男は本当に目で語る。 「何って、デュラハンの正体に決まってるだろ? 同じ顔の女が、行方不明になってないか探すんだ。  風俗街に行って、無断欠勤が続いてる女をあたれ。言っておくが、俺は行かないぞ」  そう言って灯火はそっぽを向く。女性嫌いの彼にとって、風俗街は地獄だろう。だが、言い方というものがある。もう少し下手に出るなどすれば、こちらも不快な思いをしないですむというのに、この男はいつも棘のある言い方しかしない。 「それも重要だけど、今は情報をまとめて、午後はふたりに今井直政のところに行ってもらうよ。風俗をあたるのはそれからだ」 「はい」 「は?」  なんで俺が、と言わんばかりの灯火の足を、椿はそっと踏んづけようとしたが、逃げられてしまった。  彼の顔を見ると、勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。
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