パーツ紛失事件

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 着いたのは複合商業施設。平日だが、クリスマスイブで混んでいた。 「お前、どんくさいから迷子になりそうだな」  灯火は失礼なことを言うと、椿の返事も聞かずに彼女の手を引っ張った。  抗議しても無駄なのは、経験則でよく分かっているため、椿はだまってついていく。  連れて来られたのは、ユニクロだ。 「サイズ何?」 「なんでそんなこと聞くんですか?」 「いいから答えろ、このダボ」  何故服のサイズを聞いてくるのか質問しただけで、ここまで言われるのは理不尽だ。灯火の暴言に慣れていたつもりでいたが、このレベルの暴言は割と少なめなので、カチンと来てしまう。 「もう、あなたはなんでいつも……」 「説教なんか犬も食わねーよ。はやくサイズ言え、死にたいのか?」 「はぁ、もう……。Mサイズですよ」 「ん」  灯火は極暖ヒートテックと、ウルトラライトダウンリラックスコートをカゴに入れていく。ちなみに、色はどちらも黒だ。自分の分も入れているらしく、カゴはすぐにいっぱいになった。 「どうしてこんなものを買うんですか?」 「明日は、寒いところに行くからだ」 「寒いところ?」  明日は紺野の家に行く。外は寒いが、室内は温かい。これほどの防寒具が本当に必要だろうか? 「今は真冬とはいえ、死体を普通の室内に置いておくわけないだろ。継ぎ接ぎなら、特にな」 「え? 死体って……」  話を聞きにいくだけで、家宅捜索はまだできない。継ぎ接ぎのご遺体とご対面するのは、まだ先だろう。  そのことを伝える前に、灯火はレジに行ってしまった。急いで後を追って支払おうとするが、ユニクロのレジはハイテクだ。カゴに入ったままでも、商品をそこに置くとものを判別し、値段を瞬時に出してくれる。  椿がレジに着く前に、灯火は会計を終わらせてしまった。 「いくらでした?」 「いい。そんな金があるなら、カイロでも買ってこい。足の裏用も買っておけよ。フードコートにいるから」  灯火は一方的に言うと、大股でユニクロから出ていってしまった。
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