27人が本棚に入れています
本棚に追加
着いたのは複合商業施設。平日だが、クリスマスイブで混んでいた。
「お前、どんくさいから迷子になりそうだな」
灯火は失礼なことを言うと、椿の返事も聞かずに彼女の手を引っ張った。
抗議しても無駄なのは、経験則でよく分かっているため、椿はだまってついていく。
連れて来られたのは、ユニクロだ。
「サイズ何?」
「なんでそんなこと聞くんですか?」
「いいから答えろ、このダボ」
何故服のサイズを聞いてくるのか質問しただけで、ここまで言われるのは理不尽だ。灯火の暴言に慣れていたつもりでいたが、このレベルの暴言は割と少なめなので、カチンと来てしまう。
「もう、あなたはなんでいつも……」
「説教なんか犬も食わねーよ。はやくサイズ言え、死にたいのか?」
「はぁ、もう……。Mサイズですよ」
「ん」
灯火は極暖ヒートテックと、ウルトラライトダウンリラックスコートをカゴに入れていく。ちなみに、色はどちらも黒だ。自分の分も入れているらしく、カゴはすぐにいっぱいになった。
「どうしてこんなものを買うんですか?」
「明日は、寒いところに行くからだ」
「寒いところ?」
明日は紺野の家に行く。外は寒いが、室内は温かい。これほどの防寒具が本当に必要だろうか?
「今は真冬とはいえ、死体を普通の室内に置いておくわけないだろ。継ぎ接ぎなら、特にな」
「え? 死体って……」
話を聞きにいくだけで、家宅捜索はまだできない。継ぎ接ぎのご遺体とご対面するのは、まだ先だろう。
そのことを伝える前に、灯火はレジに行ってしまった。急いで後を追って支払おうとするが、ユニクロのレジはハイテクだ。カゴに入ったままでも、商品をそこに置くとものを判別し、値段を瞬時に出してくれる。
椿がレジに着く前に、灯火は会計を終わらせてしまった。
「いくらでした?」
「いい。そんな金があるなら、カイロでも買ってこい。足の裏用も買っておけよ。フードコートにいるから」
灯火は一方的に言うと、大股でユニクロから出ていってしまった。
最初のコメントを投稿しよう!