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「で、なんでこんなに大荷物なんですか? 引越し業者と、ホームセンターの人いますけど……」
「彼は住み込みで働くからね」
聞いてない__
そんなことを言っても、「今言った通り」と返されるのは明白だ。言葉にするかわり、ため息をついた。
「ごめんよ、なんせ急に決まったことだから」
工藤にしては珍しく、申し訳なさそうな顔をする。こんな顔をされると、これ以上文句を言うのは気が引ける。
「あの、すいません……」
声をかけられて振り返ると、大きな段ボールを抱えた引っ越し業者が申し訳なさそうな顔をしていた。ふたりは咄嗟に横にずれる。
「邪魔なところにいてすいません」
「いえ。うちの荷物はこれで最後です」
そう言って業者は、荷物を右奥の部屋に置いて階段を降りていった。
「河合さん、僕はまだ業者さん達と手続きやらなんやらをしないといけないから、君はさっきの人が入った部屋に行って荷物の確認をしてもらっていいかな?」
「それは構いませんが、人の荷物ですよね?」
遺品でも人の荷物を暴くのに抵抗があるのに、生きている人間の、それもこれから一緒に働く人間の荷物を暴くのは気が引けた。
「開ける必要はないよ。そんなことしたら、僕が殺されかねないからね」
物騒なことを言いながら、工藤はスマホを操作する。
「側面に印をつけてあるそうだ。ええと、○が15箱、△が3箱、✕が2箱。ちゃんと数があるか見てもらっていいかい? 一応業者さんには印ごとに分けてほしいとは言ってあるけど、あれだけの数がいたから、伝達されていないだろうね」
「つまり、印ごとに荷物を仕分けしてほしいと?」
工藤は満足気に微笑み、大きく頷く。きっと何も知らない人が見れば、優しい笑顔なのだろう。だが、工藤伊吹という人間を知っている椿からしたら、ロクなものではない。彼がこの笑顔を見せるときは、ほぼ確実に面倒ごとが待っている。
椿はがっくりと肩を落とし、荷物がある部屋に入った。この部屋は2階で1番広い部屋だが、誰も使っていない。
2階の間取りはちょうど椿がいる大部屋がひとつ。ちなみに、この部屋からベランダに行ける。空き部屋が3部屋、トイレ、大部屋と対になる位置に、椿の部屋がある。
椿の部屋と言っても、仕事で寝泊まりする時以外は使われないので、ベッドとテーブルセットしかないシンプルな部屋だ。
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