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大部屋には大量のダンボールが積まれていて、隅には台車が置かれていた。
台車はビニールに包まれていることから、業者のものではなく、工藤が買ってきたと推測できる。
ダンボールタワーは間隔を空けていくつも建っているが、工藤の言うとおり伝達がうまくいかなかったらしく、印はバラバラになっていた。
「新入りってひとり、だよね……?」
工藤から聞いた時にも、ひとりの荷物にしては多いと思ったが、こうして実物を見ると、ひとり分の荷物とは思えない。それに、何故あんなにホームセンターの業者がいたのかも謎のままだ。
「考えても無駄だし、所長に聞くのももっと無駄ね……」
浮かんできた上司の顔を脳内プレス機で潰すと、近くのダンボールタワーの最上階を持ち上げた。
「重っ!?」
その重さに、腕がもげてしまうかと思った。こんな重たいものを、よく積み上げられたものだと感心する。
「もう、何が入ってんのよ、これ……」
なんとか部屋の隅に置くと、ダンボールの印をチェックする。乱雑に、おおきな黒い○が書かれていた。
「○は要注意ね……。あの台車、使っていいのかな?」
椿の視線は、未開封の台車に行った。ほんの数十センチの距離とはいえ、あんな重たいものをひとりで持ち運ぶのは大変だ。
「所長に聞いてみよっと」
工藤の元へ行こうとドアを開けると、彼はちょうどこちらに来た。
「すごい数でしょ?」
「えぇ、本当に……。あの台車、使ってもいいですか?」
「うん、いいよ。業者さん達が帰ったから、それぞれ部屋に運ぼうと思ってたしね」
「え?」
部屋に運ぶと聞いて、気が重くなる。台車を使うとはいえ、この大荷物を移動させるのは気が遠くなる作業に思えた。
「僕も手伝うから、そんな顔しないで。僕が部屋に運ぶから、河合さんは台車に荷物を乗せてくれるかい?」
「それなら……。どれから運びますか?」
「そうだね、重たい○から運ぼうか」
「はい」
返事をして台車を開封したところで、椿は引っかかりを覚えた。
(なんで所長が、○の荷物は重いって知ってるの?)
特別扱いをしてほしいというわけではないが、女性である自分に、ここまでの重労働をさせるのはいかがなものだろう。
「所長は、荷物の中身知ってるんですか?」
「あぁ、知ってるよ。といっても、大雑把にだけどね。○は本、△は布製の日用品、✕は食器と、普通の日用品って言ってたかな」
「本? 新人さんは、読書家なんですか?」
真っ先に思いついたものを言うが、それでも多い気がする。読書習慣はほとんどない椿だが、仕事をしながらこれだけ多くの本を読むのは不可能な気がした。
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