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「まぁ、そんな一面もあるね。まずは荷物を運ぼう。彼の話はそれからだ」
これ以上聞いても、この場で教えてもらえないだろう。それに、椿もこの作業をはやく終わらせたかった。
台車を開封すると、○が書かれた箱を台車に3箱積む。工藤は台車を押して部屋から出ると、少し前まで業者が出入りしていた部屋に入る。
「あれ?」
なんとなく工藤を目で追っていると、どの空き部屋もドアが僅かに開いていることに気づく。
「まさか、ひとりで3部屋も使う気?」
この荷物の量だ、2部屋は使うかもしれないと頭をよぎった。だが、いくらなんでも3部屋を使われるのは面白くない。
この住宅はあくまでも職場。椿の部屋もあるとはいえ、ふだんはほとんど使わない。1階のリビングで事足りるからだ。
それでも、後から来る得体の人物が3部屋も使うのは気持ちのいいものではない。
モヤモヤした気持ちを抱えながら考えていると、工藤が戻ってきた。
「所長、新人さんは何部屋使うつもりですか?」
「そのことも、荷物を運び終えたら話そうか」
そう言って笑う工藤はどこか寂しそうに見えて、それ以上追求しようと思えなかった。
時間をかけて本をすべて運ぶと、工藤は椿に財布を差し出した。意図がつかめず小首をかしげると、手を取られ、その上に財布を置かれる。
「あとは僕がやっておくから、どこかでケーキでも買ってきて。珈琲を淹れるのもめんどうでしょ? コンビニとかで買ってきていいからね」
「分かりました」
ケーキという単語ですっかり元気を取り戻した椿は、駅前のケーキ屋へ足を運ぶ。ここよりも近いケーキ屋はあったが、椿はこの店のケーキが1番好きだ。
自分が好きなチーズケーキと、工藤が好きなチョコケーキを買うと、まっすぐ帰る。
工藤は珈琲も買ってきていいと言ったが、あの家にある珈琲も紅茶も、インスタントだ。粉末やティーバッグを入れたら、お湯を注ぐだけ。その手間を惜しんで荷物を増やす方が負担になると考えた。
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