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「戻りました」
リビングに行くと、工藤はソファに座ってくつろいでいた。疲れたのだろう、大きなあくびをして、目にうっすら涙を溜めている。
「ありがとう。あれ? 珈琲は?」
「今淹れますね」
椿はキッチンに行ってケーキをそれぞれの皿にうつすと、専用マグカップにインスタント珈琲を入れていく。ちなみに椿のマグカップはクローバーが、工藤のマグカップにはピアノと音符が描かれている。
3本のスティックシュガーと、2つのコーヒーフレッシュと一緒に、ケーキと珈琲を持ってリビングに戻る。
「ありがとう」
工藤は自分のケーキと珈琲を受け取ると、2本のスティックシュガーの封を同時に切り、コーヒーフレッシュと一緒に入れてよくかき混ぜる。
(本当に甘党ね、この人は……)
椿はスティックシュガーとコーヒーフレッシュをひとつずつ入れながら、自分では飲めないであろう甘い珈琲を見る。
「さて、新人くんのことだけど、彼は僕達とは違う職業だ」
「え? それって、警察ではないということですか?」
椿は傾けかけたマグカップを置き、目を大きく見開く。
「そうだよ。けど、僕達だって特殊なんだから、変わりないよ」
そう言って、工藤は涼しい顔をして珈琲を飲む。
何故警察であるふたりが、住宅街を拠点としているのか?
昨今、警察内部は荒れに荒れていた。縄張り意識が強い彼らは、同じ管轄でも、部署が違えば敵と思うようになっていたのだ。そのせいで起こる証拠隠滅や、情報引き継ぎの不手際などが跡を絶たない。
警察の警察と言われている監察官でさえ、賄賂を渡され目を瞑る始末だ。おかげで解決できるはずの事件が、未解決に終わる。このままでは、警察の威信に関わる。
由々しき事態をどうにかするために作られたのが、隔離特殊捜査班だ。建物も別にすることで腐りかかった組織と切り離し、自由に捜査をすることができる、異色な特殊捜査班。
変わり者だがキレ者で出世欲のない工藤伊吹に、純粋な正義感を持つ故に、邪険にされ続けた河合椿。
たったふたりだけの捜査班だが、実績は地道に積み重ねて行っている。
どんなに実績があろうが、組織の蚊帳の外にいるため、用事があって本庁に行っても警察として見られないことが多いが。
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