風変わりな新人

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「新人の名前は、灯火灯矢。普段はバイトをしながら、小説や台本を書いている。簡単に言うと、アマチュア作家だね」 「プロでもアマチュアでも、小説家に捜査なんてできないと思いますが? 現実の事件と、小説の事件は異なるものでしょうし」 「そうだね。それに、彼はミステリーがほとんど書けない」 「じゃあ、なおさら向いてないじゃないですか……」  筋の通っていない話に、椿は呆れ返る。ミステリーが書けるのなら、ある程度は役に立つかもしれない。といっても、そこまで期待はしていないが。それでも、可能性はゼロとは思えない。  だが、工藤はミステリーはほとんど書けないと言った。そんな人物に、捜査などできっこない。 「まぁまぁ、話は最後まで聞いてよ」 「そもそも、許可は取ってるんですか?」 「うん、もちろん。ほら」  工藤はポケットから折りたたまれていた紙を出して広げると、椿に手渡した。そこには一般市民である灯火灯矢を雇うといった旨が書かれていた。 「……警察でもないのに」 「それはさっきも聞いたし、僕達も似たようなものだって言ったでしょう?」 「確かに、私達は組織から隔離されて住宅街にいます。それでも、警察学校を通い、厳しい訓練もしてきました。実績だって、まだ少ないですが積み上げてきました」 「会ってもいないのに、否定しないでほしいな。彼は有能なんだ」 「そうは言いますけどねぇ……。あの、これ、ペンネームってやつですよね? どうして本名が書かれていないんです? この契約書も、所長が勝手に作ったんじゃないですか?」  納得できずに不満を言い続けると、今度は工藤は呆れ返ってため息をついた。 「君の言いたいことも分かるけど、彼は普通のアマチュア作家じゃない。才能に振り回されてる男だ」 「所長は、文才が捜査の役に立つとお考えですか?」 「違う。彼の才能は、文才じゃない」  ハッキリ言わない工藤に、イラ立ちが募る。このままでは怒鳴ってしまいそうだと思い、ケーキを食べて息を吐く。少しだけ落ち着きはしたものの、不満は膨らむばかりだ。
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