風変わりな新人

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風変わりな新人

 残暑がしぶとく居座る9月。都内にある庭付きの一戸建て住宅に、業者達が重たい荷物を抱えて中に入る。中に入ろうとした女性、河合椿は何事かと彼らを凝視する。彼らが着ているユニフォームはバラバラで、ホームセンターのスタッフと引っ越し業者が入り乱れていた。 「なんなの、これ……」  業者の波を掻き分けてなんとか入るも、探している人物は見当たらない。これだけの業者が出入りしているのだからどこかにいるだろうと思い、1階を探索する。  この家は1階にはリビング、キッチン、和室がふたつ、風呂、トイレがある。椿が探している人物、工藤伊吹は和室を好み、どちらかにいることが多い。  さっそく行って覗き込んでみるも、工藤の姿はない。 「まったく、どこに行ったんだか……」  仕方なく電話をかけてみると、2階から着信音が聞こえてきた。電話を切って2階に行くと、業者が右往左往している。  その中に眼鏡をかけた高身長の男性を見つける。彼こそが、椿が探していた男、工藤伊吹だ。彼は椿が所属する隔離特殊捜査班の所長で、この家の家主である。 「所長、これは何事ですか?」  駆け寄って聞いてみるが、彼は穏やかな目をこちらに向ける。 「やぁ、河合さん。言ってなかったっけ? 明日新入りが来るんだ。彼のために部屋を用意してるんだ」 「新人? そんなの聞いてませんよ……」 「そうだっけ?」  指先でポリポリと頬を掻き、小首を傾げる工藤にガックリと肩を落とし、ため息をつく。彼のマイペースには毎回振り回されているが、今回は特に異常だ。 「うん、まぁいいか。今言った通り、明日から新入りが来るんだ。ちょっと変わった人だけど、有能だよ」 「はぁ……」  少し楽しそうに言う工藤に、椿は生返事しか出ない。どんな新人でも、人付き合いが得意でない椿にとって、気苦労が絶えない日々がしばらく続くのは変わりない。できればもっと事前に言ってほしかった。
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