プロローグ

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21ffe911-fd34-4d03-92c9-ef0e6679e753  魔法は存在する。しかし皆が想像するものとは違う。  瀕死の重傷を治すようなものはない。せいぜい疲労を回復する程度。  全てを焼き尽くすような豪火もない。それは燃料と共に噴き出す火炎放射器だ。魔法の炎は自然界にあるもの以上威力はない。  二つを例にあげても、そんな感じだ。銃を持った者を相手に戦うには、魔法力だけでは勝てない。戦闘に応じたそれなりの応用力や、鍛錬が必要だ。  空を飛んだり、瞬間移動することもできない。それが現実の魔法。  そして魔法を使う者の数は年々減っている。なり手がいないのもあるし、時代についていけないのかもしれない。  放課後のチャイム。  部活が始まる生徒たちや、帰宅する生徒たちで校内や敷地、正門付近は賑やかになる。  その中に、魔導士の少女はいた。  名は夕紀(ゆうき)。  本名はあるが、裏社会での名は“夕紀”で通っている。  制服姿に揺れる黒髪のポニーテールは、派手さはなく地味でもなく、いわゆる“普通”で、整った顔立ちの彼女は、如何にも女子高生といった風で、魔導士とは誰も思わないでいた。  いや、そもそも一般人に、魔導士の存在を認知するものは少ない。  この時代において、魔導士は、=裏社会の住人だ。  彼女の場合、普通の社会で高校生活を送っていて、裏社会に置いているのは片足半分程度といったところだろうが。 「ねえ、彼女ぉ、かわいいねぇ」  学校を出て、繁華街を歩いていた夕紀の後ろから、男の声がかかった。  振り向く夕紀。  そこには、若い青年がいた。背は夕紀より高く、細身で顔立ちの整った男だ。  ボタン全開のウェスタンシャツから見える“ “DIESELT”のTシャツに、“NIKE”のバッシュと、金まわりはよさそうな雰囲気で、その手のことがわかる女子なら、ナンパにのってしまいそうな雰囲気だ。 「何の冗談?笑えないよ」  夕紀は、微妙な顔で言った。  相手の男は木崎(きざき)。前に夕紀のことをまったく“同じセリフ”でナンパしたことがあった。 「何だよ、笑えよ」 「何だっけ?木崎、だっけ?私だって気づかずに、またナンパしてきたのかと思った。」 「そんなわけあるか。俺は一度見た女の顔は忘れねえ。それにあの時は、お前には大事な髪の毛を焼かれるところだったからな、あんな目に合うのは懲り懲りさ」  ちょっぴり悪意ある笑顔を見せる夕紀は、一瞬掌に小さな炎を出して、握るように消して見せた。 「で、何か用?」 「ああ、ちょっと付き合ってくれないか?」 「…?」 「俺の知り合いでさ、今は用心棒やってる奴がいて、そいつと会って欲しいんだよね」  夕紀は訝しげな顔をした。 「何で?」  木崎はポケットに入れてた手を出して、両掌を上向きに肩をすくめた。 「それは会って聞いてみてくれ。聞いた上で嫌なら断ればいい」  夕紀は少し考えた。はっきり言ってこの話について行くメリットを何も感じない。そもそも木崎(このおとこ)との関係はない。一度ナンパをされただけ。 「いい、行かない」  木崎は口を一文字にし、目を細めた。 「お前さ、少しは魔法(そのちから)を活かしてみる気ないわけ?」 「どういうこと?」 「魔導士の力は血だ。勉強や修行だけすれば使えるわけじゃない。特別な才能だ。それを、ただ持ってるだけじゃなく、実際に使わないかって話さ」 「興味ない」  反応の悪い夕紀に、木崎は頭を掻きながら片目を瞑って、難しい顔をした。 「…じゃあ美味いケーキと茶をご馳走する。その時に話に興味があれば聞けばいい。興味ないなら、無視して食って帰ったらいい」  しつこくされる前に、きっとここで断ってもしつこくされるだろうと察した夕紀は、浅くため息をついた。  「…どこに連れ行く気?」
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