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第十七話 チームのお試し依頼
「いたいたぁ、いたぜえ」
見るからに悪そうな男たちが、部屋にドタドタと入って来た。その男たちに少し遅れて黒いスーツの男がゆっくり歩いて入って来た。
頭は薄く、茶色がかった眼鏡を掛けた男だ。
ここは、東京近郊にある、ゴールドスターズホテル経営者、平間 靖幸所有の別荘。
今ここに入ってきた男は、加場根 文明と、その手下たちである。
彼らは、平間の娘、陽子を探し出すため、ここまでやってきたのだった。
二日前…。
かつての東京湾の上に作られた人工島、“新東京”。その米部河巣地区。ゴールドスターズホテルは、そこにあった。
米部河巣は、特別カジノ地区で、国内で唯一カジノ経営が許可された場所。
しかし、国の条件付けは厳しく、地区の犯罪率の増加や、経済的に身を滅ばず人間を減らすために、一定の所得のある世帯でないと入れない会員制を義務付けてる上に、カジノは許可の下りた一定ランクのホテル内でしか経営はできない。
最初は経営者側から難色を示されたが、それでも海外からの旅行者や、国内の富者の利用が少しずつ増えて、盛況ぶりを見せていた。
そんなカジノホテルの中の経営者である平間から、渡辺の元にやってきた依頼。“娘を守る”こと。そして娘に“迫り来る相手を排除”すること。
その話を聞くために、渡辺、六堂、夕紀は、木崎の錆びた愛車に乗って、ホテルのある米部河巣へと向かった。
本来、裏の人間に護衛を頼むなどあってはならないことなのだろうが、何か理由あってのことなのだろう。
また、こちら側にとっては、これから裏社会で活動をするチームとして、やっていけるかの試験的な依頼でもあった。
ホテルに着くと、四人は支配人に案内され、裏口からオーナー室に通された。
さすがに場所も場所、四人ともそれなりにめかし込んだ格好をしていた。
渡辺のスーツ姿は似合っているが、木崎は三流ホスト風、若すぎる六堂と夕紀は服装が馴染まず少し浮いてた。
高校生の夕紀は、これまで縁のなかった場所に周囲を見渡していた。
「っていうかさ、こう言うところ…私初めて」
「…俺もだよ」
きょろきょろしている夕紀に、六堂は笑って返した。
少しして、平間がオーナー室に入ってきた。
「お待たせして申し訳ない」
高そうなスーツを着ているが、気取りもせず、普通の紳士といった感じだ。
ただ、四人で来ることは聞いていたが、メンバーが思いの外、若いことに驚きは隠さないでいた。
とりあえず、平間は話を進めた。まずは複数枚の写真を、接客用のテーブルの上に置いた。
「これは?」
渡辺は尋ねた。
全ての写真に同じ制服姿の少女が写っている。どれを見ても、それが“隠し撮り”だと判る。
「これが、一人娘の陽子です」
四人とも説明を聞くまでもなくピンと来た。写真は脅迫であると。
「なるほど、いつでも娘さんを殺れるということか…。一体誰が?」
渡辺の質問に、平間はすぐに返答した。
「加場根 文明です」
「…ああ、あの黒い連中だな。大組織ってわけではないが、面倒な連中だ。また何でそんな奴に?」
「このホテルを作るのに、色々とね…」
カジノ経営は華やかな表とは対称に、裏はかなりドス黒いものがある。その大凡は”ヤクザな組織”の絡みだ。
平間もオーナーになった際、色々悪い輩の接触はあったが、加場根がそれを何とかしてくれたのだった。
「実は、私は加場根とは、小中と同級生なんです」
最初は黒い組織だとは知らず、警備関係の仕事だと言われ、偶然と再会を装って、経営にも入り込もうとしてきたらしかった。
「で、正体を知り突っぱねたら、娘さんの、写真が届いたわけですね」
「ええ、経営に一枚噛ませろと…。そこで、不本意ながら、裏の世界で腕利きのボディーガードを探し、依頼したのですが…、自宅で護衛中に」
四人ともは、Secret storyで見た惨殺遺体の写真を思い出す。
「娘さんは今どこに?」
「今は、このホテルのVIPルームにいます」
それを聞いた六堂は、手に持っていた刀のベルトを肩から反対の腰あたりに掛けて取り付けた。
「やることはシンプルだ、来たやつをぶっ殺す。加場根って野郎に、このホテルに手を出したらどうなるか、教えてやろう」
鋭い眼光でそう言う六堂の肩を叩き、渡辺は苦笑した。
「そう急くなよ。奴らはしつこいし、やり方も昔の地上げ屋みたいに、脅すだけじゃない。情報集めも得意だ。そこを逆手に取ろう」
そして、平間の娘、陽子を所有している別荘に移動させ、護衛するという作戦を実行することにした。
それから二日が経ち、娘の隠れ場所である別荘に、加場根たちが現れたのだった。
娘は少し下を向いて震えながら後退りした。
「へへ、可愛いぜ、こいつぁ」
加場根の手下の一人が、嫌らしい目つきで娘を見回した。
「加場根さん…“殺さなければ”ちょっと楽しんでもいいですか?」
加場根は苦笑しながら、ため息をついた。
「ほどほどにな…ついでに、行為の写真でも送りつけてやろう。平間もこれで俺たちが本気だと理解するだろう…」
手下は、ニヤニヤしながら娘の肩に手を乗せた。
「…だそうだ、お嬢さん。恨むならパパを。でもそう悪いようにはしねえから、よ」
加場根は内ポケットから煙草を取り出すと、一本咥えながら踵を返した。
するとその途端…
「おわっ!わああ、あっちーあちぃ!」
娘に行為を強要しようとしていた手下が大声で叫んだ。
驚く加場根と、他の手下たち。
叫んだ手下の手からは煙が吹いていた。悲鳴を上げながら、その手を床に擦りつけている。
「あぢっ!あぢぃ!」
娘の手の上では、炎がメラメラと、燃えているのが目に入る加場根たち。、
「何だ貴様…は……ん!」
加場根は気づいた。目の前にいる娘は、平間の子、陽子ではないことに。
陽子の通う高校の制服を着て、同じような髪の結び方をしてはいるが、顔が違う。
「誰だ、お前!」
「…お嬢様高校の聖百合学園の制服を着る機会あるなんてぇ、ちょっと楽しい」
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